ラグビーリパブリック

ワイルドナイツの新たな壁。ルード・デヤハー、活躍の裏側は。

2023.01.17

南アの大物激突。ワイルドナイツのデヤハーにタックルするヴェルブリッツのデュトイ(撮影:松本かおり)


 才能のある選手が整備されたチームに入ったらどうなるか。南アフリカ代表LOのルード・デヤハーが、その答えを示した。

 今季から国内タイトル2連覇中の埼玉パナソニックワイルドナイツへ加わり、1月15日、加盟するリーグワンの第4節に挑んだ。

 旧トップリーグ時代に4強以上が9度のトヨタヴェルブリッツを34-19で下し、全勝をキープした。

「(ワイルドナイツでのプレーを)楽しんでいます。慣れれば、大変なことはない」

 身長206センチ、体重127キロの30歳は、この午後、デビュー戦から2試合続けての先発を果たした。昨年の暮れに合流したばかりのチームのシステムに染まりながら、自分の色を示した。

 7-7と同点で迎えた、前半14分からのことだ。

 自陣10メートル線付近で始まった連続攻撃で、左中間にあった接点からのパスコースへ駆け込む。つかみに来たタックラーを引き連れ、前傾姿勢でボールをつなぐ。味方の突破を促す。

 そのままワイルドナイツがハーフ線を突破すると、その先の接点の左側へデヤハーが回る。攻撃陣形の先頭で球をもらい、防御をおびき出しながら深い角度のパスをさばく。組織的に勢いを生む。

 続く17分には、本業と言える下働きで光った。

 ヴェルブリッツが敵陣中盤右で作ったモールに腕を差し込み、その場に止める。向こうがたまらず展開を図ると、その箇所へは味方が圧をかける。落球を誘う。

 ここからワイルドナイツは、続く23分にトライを決めるまでほとんどの時間をヴェルブリッツのエリアで過ごした。

 相手のドロップアウトを受けてのカウンターアタックで、敵陣22メートル線付近まで進む。同左での自軍スクラムからは、短い手数でゴール前右中間へ侵入する。

 するとデヤハーは、LO同士のリアム・ミッチェルと接点の右脇へ並ぶ。まずは遠い位置のミッチェルが楕円球をもらい、近い位置のデヤハーが折り返しをもらう。勝ち越す。味方のコンバージョン成功で14-7とした。

 ここから着実にリードを広げる間、デヤハーは守りで魅した。

 後半4分、自陣ゴール前右の接点を乗り越えて危機を脱する。13分、自陣中盤で10フェーズを重ねられながら、そのうち2つの局面でハードタックルを繰り出す。

 空中戦でも際立っていた。

 HOの坂手淳史主将が「後半、ヴェルブリッツは(ラインアウトのボールが)投げづらかったんじゃないか」と見る通り、相手側のラインアウトで激しく競り合う。

 坂手は続ける。

「ルードはモールでのアタック、ディフェンス、ラインアウトではリーダーとなり、若手やこれまでリーダーだったジャック(・コーネルセン=NO8)、リアムにいい影響を与えてくれている。ワールドクラスだと感じます。味方がそう思うということは、敵はもっと脅威を覚えているはずです」

 8対8で組み合うスクラムでも、連携の取れた最前列のメンバーをデヤハーが後方から押す。ドライブする。本人は謙遜する。

「最前列にいい選手がいるため、私のポジションは仕事がシンプルです。ただ、押せばいい」
 
 対するヴェルブリッツには、同じ南アフリカ代表でFLを務めるピーターステフ・デュトイがいた。

 身長200センチ、体重116キロの30歳は突進役、タックラーとして奮闘した。NO8のフェツアニ ラウタイミとともに激しい衝突音を鳴らし、コンタクト合戦の質を高めた。

 デヤハーは苦笑した。

「(デュトイは)相手に回すより、一緒にプレーしたい選手ですね」

 ただし、選手の能力と組織とのシナジー効果の大きさでは、デヤハーのいるワイルドナイツに軍配が上がったか。

 敗れたヴェルブリッツでSHを務めた福田健太は、再三、得点機を逃したのを受けて語った。

「ゲイン(大きく突破)しても、ブレイクダウン(接点)でひとりひとりが細かい仕事をやりきれていない。そして、ゴールを割りきれない。チャンスの時の集中力、精度は今後の課題です」
 
 ボール保持者がタックルで倒れた際、相手から遠くへ球を置く「ロングリリース」の動作をはじめ、攻撃し続けるための技術を磨き直したい。

「(ヴェルブリッツには)トッププレーヤーが集まっている。個人の意識(次第)だと思います。僕自身も、ロングリリースを雑にしている選手がいたら、それが試合で出ないように『しっかりとロングリリースしろ』と言い続ける。言われた人間が意識する…その、積み重ね(が必要)だと思います」

 福田は「ワイルドナイツさんががまんして、チャンスを作って、獲りきるところは我々も見習うべきだと思います。小さいところの差だと思うのですが…」とも話した。つくづく、ラグビーは団体競技だ。

 デヤハーの活躍がワイルドナイツの勝利につながったのは、かねて盤石なワイルドナイツの型にデヤハーが適応したからと取れそうだ。

 その構図について聞かれ、本人は「(ワイルドナイツでは)初日からグループの一員だと感じさせてくれた。オフフィールドではスタッフが助けてくれた。そう。ラチだよ」。ちょうど隣にいた良知兼佑(らち・けんすけ)通訳に触れ、新天地への愛を語った。

「家族を連れて異国へ来るのは大変な部分もあるなか、休日には家具の準備、Wi-Fiの取り付けなど手伝ってくれたんだ。スタッフが私に心地よい環境を提供してくれるから、感謝の気持ちがフィールド上でのプレーに表れる」

 2019年のワールドカップ日本大会で、南アフリカ代表史上3度目の世界一に喜んだデヤハー。複数あった日本チームからのオファーのうち、ワイルドナイツを選んだのは向上心があったからだ。

 元オーストラリア代表ヘッドコーチでいまのワイルドナイツを束ねるロビー・ディーンズと会話し、決意した。

「どれだけワイルドナイツがリーグ内で優れているかについて聞きました。いい環境もあるため、選手として成長できるのではないかと思いました。うまくなりたい、貢献したいと考えています。ここに在籍する何年間かで、いくつものタイトルを獲りたいです」

 平日は熊谷での暮らしとトレーニングを楽しみ、週末には新しい仲間と一枚岩となる。頂点に近づく。

 21日には東京・駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場で、リコーブラックラムズ東京との第5節に臨む。

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