絶体絶命に映った。イーグルスの複層的なラインと個々の破壊力の合わせ技に気圧されていたサンゴリアスが、さらなるピンチに出くわした。わずか2点リードで迎えた、前半18分のことだ。
新加入で今季初先発のSO、アーロン・クルーデンが一発退場となったのだ。
自陣ゴール前ほぼ中央の接点に身体を差し込んだ際、相手SHのファフ・デクラークにヘッドバッドをしたように映ったためだ。
サンゴリアスで共同主将を務めるSHの齋藤直人は、しかし、フィールドで古瀬健樹レフリーの説明を聞きながら次を見据えた。
「もう反論はできなかった。素直に切り替えて、その後にチームとしてどうするか(を考えた)」
1月7日、東京・味の素スタジアム。リーグワン1部の4強によるプレーオフ争いに関与しそうな第3節では、クルーデンの退場直後にイーグルスのSOの田村優がペナルティゴールを決める。
ここでサンゴリアスは7-8と勝ち越され、対するイーグルスの選手が10分間の一時退場処分を受けている間以外は、ずっと数的不利を強いられた。
驚くべきは、不利な状況のサンゴリアスが引き締まったことだ。攻守ともに、ブレイクダウン(接点)への援護役の鋭さが増した。
象徴は箸本龍雅だ。攻めても「ブレイクダウンへの2人目の寄り」を意識したという2年目のFLは、守りでも泥臭く働いた。
デクラークの好キックで自陣深くに入られた24分、相手NO8のアマナキ・レレイ・マフィにタックル。自立したまま倒し、隣にいた味方PRの垣永真之介とジャッカルを繰り出した。危機を脱した。
10-8と勝ち越して迎えた30分頃には、自軍FBの松島幸太朗のキックを追った。自陣から敵陣22メートル線付近までの力走だ。一緒に駆け上がっていた松島が捕球したイーグルスのWTB、イノケ・ブルアを倒すと、その手元へ箸本が絡む。ペナルティキックを得る。13-8とした。
「あそこは、結構、自分の強み。普通だったらいない(走れない)ところに走り込み、いい(ボールへの)絡みができた。相手(の援護役)がいないから(球を奪う)チャンスだぞと、狙っています」
就任1年目の田中澄憲監督は、退場者を出してから防御時のブレイクダウンに激しさが増した事象を淡々と振り返った。
「14人になったからといって特別そこをやったわけではないです。イーグルスの強みはいろいろなアタック。何をしてくるかわからない部分がある。それに対して(起点の)ブレイクダウンにプレッシャーをかけることがプランに含まれていました。そこを選手が遂行してくれた」
クラブは2017年度に旧トップリーグで5度目の優勝を果たして以来、頂点から遠ざかる。覇権奪還を期待されてゼネラルマネージャーからの転身を命じられた田中監督は、選手のハードワークを自らのタクトで手助けする。
ハーフタイムにSOのできる森谷圭介を投じた。クルーデンの退場後にゲームを統率してきた、インサイドCTBの中村亮土の負担を減らすためだ。さらに28歳の森谷の経験値を考慮し、司令塔団を組む25歳の齋藤を30歳の流大に交替させた。
狙い通りだった。日本代表でも齋藤と定位置を争う流は、後半最初の攻撃機会から独自色を打ち出す。
FWに球を預けながらじわりと前進。敵陣22メートル線まで躍り出るや、自ら加速して狭い区画(ショートサイド)を攻略した。WTBの尾崎晟也のトライをおぜん立てし、18-8とした。
冗談交じりに言う。
「14人の時にテンポを上げすぎるのは厳しいことです。ブレイクダウンが優位に立った時だけ、一気に畳みかけることを意識していました。ショートサイドは(スペースが)空いているとわかっていて。ラインブレイクはし慣れていないんですけど、尾崎がいいコミュニケーションを取ってくれて最終的にトライになった」
今季のサンゴリアスは、幾人もの受け手が空間へのパスに駆け込むのを目指す。ただしこの日の流は、テンポを制御して同僚の手元へ着実につないだ。
数的不利を強いられた、味方のエネルギーをセーブするためだ。
「ラグビーで14人になるって、本当に大変。特にこのレベルで、(攻めを統率する)SOがいなくなることのチームへの影響は大きい。時間を使いながらプレーの選択をしました。後半、そこまでボール出しを速くしていません。ある程度、自分たちの形(陣形)が整ってから(放る)」
大外のスペースをちぎられ25-23と2点差に迫られていた後半23分以降には、敵陣で同僚FWへ簡潔に球を預けた。コンタクトを重ねさせた。
「FWの顔を見たら自信満々だったので。もしこれで得点できなくてもあのエリアにいることが大事。FWの頑張りが、全てだったと思います」
時折、相手のペナルティを引き出しつつ、時間を使った。39分、尾崎の2トライ目などで32-23とだめを押した。退いていた齋藤はこうだ。
「どんな時でも対応できるように、いくつか(攻撃の)システムを持っています。そのなかでリーダーが(妥当なものを)選択できたと思います」
これでサンゴリアスは、初戦黒星から2連勝。それに対し、イーグルスは1勝1敗1分となった。敗れた沢木敬介監督は開口一番に言った。
「きょうの試合はかなりだめですね」
最後にサンゴリアスが優勝した時の指揮官でもある沢木は、就任3年目でクラブ史上初の4強入りを目論んでいる。
この午後は、優勝候補に挑んだ80分間を「勝たなきゃいけない試合だったけど、自分たちから崩れていった」と総括した。組織を支える基本プレーに乱れが出たと嘆いた。
「獲り急いで、細かいところがおろそかになった。1人、少ない状況でもサントリーはいいコントロールできたし、チャンスをスコアまでつなげていた。その差が出たと思います」
勝者も敗者も、もともと皮膚感覚でわかっていたサンゴリアスのタフさを再認識していたと言える。
2季前までサンゴリアスにいたイーグルスの梶村祐介主将は、インサイドCTBとして好突破を連発もただ悔やんだ。
「相手が14人になってから外(タッチライン際)にスペースがあると見えていて。ただ、そのなかで自分たちのセットスピード(次の攻めへの準備)が遅れてきているとも…。組織で戦えていた最初のほうと比べ、個人、個人(の動き)になってしまったと感じています。アタックマインドはより強まりましたが、結果として、何か、油断的なものが出てしまった」
ロッカールームでは、「負けて学ぶのはこれで十分。次は勝って学ぼう」と締めたという。