リーグワンは楽しい。伊藤鐘平は、国内トップレベルのラグビーを満喫する。
「自分たちのチームだけではなく、相手のチームにも世界的な選手がいる。そういう試合に出させてもらっていることは、個人の成長にとってもいいことだと思います。どんどん吸収してさらに大きくなっていきたいです」
身長190センチ、体重105キロの25歳で、東芝ブレイブルーパス東京に入って3シーズン目に入った。
同僚で現日本代表のリーチ マイケルが、NO8として好調を保つ。同じ札幌山の手高出身のリーチら代表選手の存在感について、伊藤はこう話す。
「プレー面でいい影響を与えてくれます。土曜が試合の週は、火曜と木曜に激しい練習をするのですが、その時に代表組はめちゃくちゃいいプレーします。特に僕と体形が近いマイケルさんはタックルをしてからの起き上がり、ボールへの働きかけ、ラン、パスと、全てがお手本になります」
ライバルもまた、国際的なプレーヤーを起用する。
新年一発目となる1月7日の第3節(神奈川・等々力陸上競技場)では、対する静岡ブルーレヴズが南アフリカ代表のクワッガ・スミス共同主将をNO8で起用する。
スミスは身長180センチ、体重94キロと上背こそ限られるが、敵の持つボールをもぎ取る嗅覚、強さ、駆け出した際のスピードでも際立つ。まさにワールドクラスだ。
伊藤は世界で活躍する仲間とともに、世界で活躍する強敵に挑む。いわば新年早々、リーグワンの醍醐味を味わえる。
「…そうですね。ジャッカルさせないように、頑張りたいです」
今季は開幕から、NO8に近いFLとして2戦連続で先発中だ。激しい部内競争を踏まえ、決意する。
「いまはチャンスをもらっている立場だと感じていて、結果を出したいですね、もっと。いい部分もありますが、個人的に修正すべき点もあります。最近、言われた(指摘があった)のはゲイン(突破)した後のボールリリースなど、ディテールの部分です」
守っては低いタックルで爪痕を残し、攻めては一緒にプレーする日本代表FLの徳永祥尭いわく「足の速さもあって、オフロードパス(相手に捕まったまま球をつなぐプレー)に取り組んでいる。それで試合でも、難しいところへ(パスを)通している。僕も安心していられない」。ぶつかり合いのシーンで激しさ、うまさをアピールし、長年の主力格の危機感をあおる。
知恵でもチームを支える。ラインアウトのリーダーを担う。
タッチライン際から投じられた球を空中で奪い合うラインアウトでは、ジャンパー(捕球役)の身長や跳躍力のほか、リフター(支柱役)やスローワー(投入役)、捕球位置の読み合いと、複雑な要素が絡む。
ブレイブルーパスはまず、鍛錬期に基本技術を磨いてきた。後方の支柱役は捕球役の太ももをつかんで持ち上げ、捕球役は真っすぐ高く飛んで上で「暴れない(体勢を保つ)」のを目指す。
そしてゲーム期に入れば、伊藤がその時々に対戦するチームの列の作り方、主要な動き、投入の位置を分析する。図に起こす。相手ボールを首尾よく奪うための情報を、一緒に作戦を考えるワーナー・ディアンズ、ジェイコブ・ピアスの両LOと共有する。
2人はともに2メートル超。その素材を活かすべく意識するのは、タスクを「シンプル」に伝えることだという。
「難しくしすぎると、迷って捕れないみたいな感じになってしまいます。なので、わかりやすく(を意識)。あの2人は大きいので、(図を)わかりやすく示したら、捕れる」
成果が現れたのは昨年のクリスマスイブだ。
東京・味の素スタジアムでのリーグワン第2節で、長身選手が並ぶブラックラムズのラインアウトをピアスが再三、スティールした。17-7で辛勝し、トッド・ブラックアダー ヘッドコーチにたたえられた。
「ラインアウトディフェンスは強みになっています。自分たちの誇りを持てている部分です。伊藤鐘平がいい仕事をしている」
ブレイブルーパスはここまで1勝1敗。接点での激しさとアップデートされた攻撃システムを長所に2連勝を目指すなか、伊藤は「ラインアウト、フィールドでのアグレッシブなプレー、ラインスピード(防御の出足)が期待されていると思う。しっかり愚直にやりたいですね」と生き残りを誓う。
「ワークレートを上げて、どんどんいい選手になっていきたい」