ラグビー日本代表の中村亮土は、昨年12月中旬に開幕の国内リーグワンを戦いながら肉体強化に注力する。
「もっと速く、強くなりたいと思って、シーズン中ですけど強化しながら毎日を送っています」
11月までの代表活動でニュージーランド、イングランド、フランスの代表チームのフィジカリティを目の当たりにし、「もっと、やらないと」と再確認したためだ。
いまは所属する東京サントリーサンゴリアスの試合に向けたチーム練習と並行し、オフシーズンにおこなうような筋力アップのトレーニングにも時間を割く。
現在サンゴリアスに携わる、元日本代表ストレングス&コンディショニングコーディネーターのジョン・プライヤー氏と相談し、個別のメニューを組む。
「筋肉量が多くなって脂肪が減った。体重自体は変わっていないですけど、強く、ボリューミーな感じになっています。サイズアップするというより、強くなっていきたい」
今秋、ラグビーワールドカップのフランス大会がある。中村亮土は2019年の日本大会に続き2度目の出場が期待される。
当の本人は、フランス大会だけを意識しているわけではないという。あくまで自分が「速く、強く」なりたいから、シーズン中の肉体改造へ踏み切った。
「自分自身のパフォーマンス、フィジカルを少しでも成長させたい。地道なことを、やっていきたいです」
身長178センチ、体重92キロの31歳。おもにインサイドCTBを担う。
攻めては防御網の死角へ長短のパス、キックを配し、守っては相手司令塔の目線や手の動きを見ながら、向こうの攻め手を「予測」し、止める。
旧トップリーグ時代に通算5度優勝(歴代最多タイ)のサンゴリアスでは、昨季まで2シーズン、主将を務めた。指導体制と攻撃のスタンスが変わったいまのチームにあっても、持ち味を活かす。
前年12月18日の初戦では、後半10分から登場した。
この日は本拠地の東京・味の素スタジアムで、対するクボタスピアーズ船橋・東京ベイの前に出る防御に苦しんでいた。
もっとも中村亮土は、ベンチにいた時点でタッチライン際の攻めるスペースが「見えていました」。事実、フィールドに出れば、大外へのロングパスで味方を走らせること2回。自身の技術と、グラウンドの端側に立つ選手とのコミュニケーションの合わせ技だったと言う。
「(仲間と)同じ画が見られていたら、いくらプレッシャーがあってもそういう(的確にスペースを突く)判断ができる」
中村亮土が登場した時点で13-21とリードされていたスピアーズ戦は、結局、18-31で落とした。
しかし繰り返せば、サンゴリアスは攻めるスタンスを変えている最中だ。
昨季はグラウンドに万遍なく選手を配し、数的優位が生まれた箇所へボールを運んでいたのに対し、今季は所定の空間や攻防の境界線にどんどん人を走り込ませ、意図的に数的優位を作っているような。
田中澄憲新監督は就任後、原点を見つめ直した。
自らも選手時代を過ごしたこのクラブに、「ハードワーク」する文化や「アタッキングマインド」があるのを鑑みた。
他チームより外国人枠外で出られる海外出身者が少ない事情も踏まえ、いままで以上に個人の突破力に頼らない仕組みを築きたかった。
その田中体制に中村亮土、SHの齋藤直人共同主将ら代表勢が初参加したのは、11月下旬までの代表活動を終えてからだ。選手によっては、本格的な合流前に個別の調整もしていた。開幕までに足並みをそろえて新戦法をインストールしたのは、正味2週間程度だった。
昨季4強のスピアーズとのバトルで「同じ絵」を共有するのは、簡単ではなかった。
ゼネラルマネージャーから転身したばかりの田中新監督は、こう説く。
「(代表組以外で練習試合をした)プレシーズンにもあったんですよ。アタックのストラクチャーを(以前と)変えたことで、『このアタックは、どの出口を狙っている?』についての考えがそれぞれで違ってしまうことが。そのためにリコー(ブラックラムズ東京)に負けて、その後に東芝(ブレイブルーパス東京)戦ではいい方向に(修正)できた。(開幕節の黒星は)それと似た過程なのかなと。(攻め方に関して個人間の)認識の違い、ありましたね。(スピアーズ戦後のミーティングでは)『なるほど!』という声が出ましたから」
12月25日、味の素スタジアムでの第2節では、前年度12位のNECグリーンロケッツ東葛と対戦した。のぞかせたのは、目指すスタイルの片鱗だった。
50—19で制するまで、トライを獲った以外の場面でも複数名を連動させ防御網へ切れ込んだ。
自分たちからプレッシャーのかかる場所へ仕掛けているだけに、ミスは避けられなかった。ただし、受け身のままエラーし続けたスピアーズ戦時とは失敗の質が違ったか。
フランス移籍から2年ぶりにサンゴリアスへ復帰の松島幸太朗が「徐々に歯車がかみ合っている感じはする」と話すなか、中村亮土も手応えを語る。
「スタートで結果がついてこなかったですけど、それをずるずると引きずらずに意思統一して、いい学びを得て、2試合目には半分くらい、サンゴリアスらしい試合を見せられた。ひとつひとつ、レベルアップしながらシーズンを送れている」
新年一発目にあたる第3節は1月7日、味の素スタジアムでおこなわれる。立ちはだかるのは、前年度6位の横浜キヤノンイーグルスだ。
イーグルスを率いて3季目の沢木敬介監督は、かつてサンゴリアスの指揮官を務め2017年度までトップリーグ2連覇を果たした。府中市内の本拠地グラウンドの周りには、沢木が優勝のご褒美として増設したトレーニング用の階段、坂がある。
短期間で多くの結果と財産が残ったものの、2018年に優勝を逃しただけで沢木体制は終焉を迎えた。
サンゴリアスが前指揮官のいるイーグルスとぶつかったのは、昨季の第11節が最初だ。
その日は昭和電工ドーム大分で40-27と競り勝った。それまでの準備期間においては、当時主将だった中村亮土がいつも以上に勝利への執念を口にしていたと複数の同僚が証言した。
事実確認を求められた当の本人は、「うーん、(特別な思いは)あるのかなぁ…。いや、それほどないかもしれないです」。あくまでチーム対チームの戦いを意識する。
「でも、(イーグルスは)どん欲に勝負にこだわっているチーム。そこは、警戒している部分です」
今度のイーグルス戦へ、沢木監督と同期入部だった田中監督は「(イーグルスは)着実に力をつけています。イズムが根付いていると思います。たぶん、僕以上に選手が、あれじゃないでしょうか。…わからないですけど」と述べる。
ここでの「あれ」は、「モチベーションが高まっている」と言い換えられそうだ。