初めてのファイナリストになるための一戦は、一人ひとりが持てる力を発揮した先にある。
1月2日、12時25分。国立競技場でキックオフとなる全国大学選手権の準決勝第1試合。
京都産業大学が早稲田大学と対戦する(以下、それぞれ京産大、早大)。
京産大の廣瀬佳司監督は、夏合宿での練習試合で22-40と敗れた相手に勝つために、スクラムや決定力のあるBKの整備を進めてきた。
自分たちのスタイルを出せたら勝てる。
そう自信を持って試合に臨む。
京産大のプライドの詰まったスクラム。その局面での優劣は、試合の結果に直結する。
足首の剥離骨折で戦列を離れていた渡辺龍(4年/兵庫・甲南)が3番を背負ってピッチに立てることになったのはチームにとって追い風だ。
廣瀬監督は「学生ナンパーワン」と評価する、1番の野村三四郎(4年)に期待する。
3年生の時からレギュラーの座をつかみ経験豊富。昨季も国立競技場の芝を踏んでいる。
「昨シーズンは準決勝で負けたので、今度こそ勝って決勝へ」と意気込む。
8月に菅平でおこなわれた試合にも出場した。その試合を回想し、「序盤はうまく戦えていたのに、FWがセットプレーでペナルティを取られてから流れを持っていかれました」と反省する。
「グラウンド状況(の悪さ)もあり、重さに耐え切れずに落ちてしまいました」
早大のスクラムを「8人がまとまった重さがある」と見る。
「その対策はできています。スクラムは京産のプライド。今回はそこで勝ちたい」と覚悟を決めて試合に臨む。
準決勝2日前の大晦日。京産大はスクラム練習に多くの時間を割いていた。
全体練習前と練習後。ユニットでも個人でも入念にトレーニングに取り組み、チェックポイントを見つめる。
元日本代表の田倉政憲コーチが丁寧に、厳しく伝統を伝える。
練習を終えた野村が「きょう(のスクラム練習)は短い方ですよ」と笑う。
「(入学以来、他チームの)誰よりもスクラムに時間をかけてきた自信はあります。だから絶対に負けられません」
レフリーの声がかかる前から低くなり、準備、セットする。3番がオーバーバインドでHOと組むのが京産大の伝統。
野村は3番側から崩していくスクラムの軌道が乱れぬように、経験を活かして前進する方向を制御する。
「昨年までは先輩についていく感じでしたが、いまは経験を積み、うまくいかないときの修正の仕方などわかってきました」
高校時代(愛知・西陵)まではFWバックファイブだった男は、フロントロー転向を前提に誘ってくれた場所で鍛えられ、立派なスクラメイジャーに育った。
クラブがまだ見たことがない頂上決戦の景色を見るためにも、強烈にプッシュする。
廣瀬監督は早大BKの中で、個人の力でトライを取れるWTB槇瑛人を警戒する。
そのトイメンに立つのは11番を背負う西浩斗。熊本西から入学した2年生だ。
昨年、帝京大に逆転負けした準決勝は国立競技場のスタンドから見つめた。
チームの敗戦と自分がピッチにいなかった事実。その思いは忘れない。「今年こそチームのため、4年生のためにプレーしたい」と誓う。
今季からレギュラーの座をつかんだ。廣瀬監督は、「スピードがあり、キックチェイスもタフに何度でも繰り返す。タックルも低く、強い」と評価する。
本人が話す強みも、それと合致する。中学1年時までバスケットボールをプレーしていたためジャンプ力がある。「上のボールにも自信があります」と話す。
トイメンの槇について、「素晴らしいプレーヤーとリスペクトしています」と言う。しかし、「スピードでは負けていない自信があるし、スワーブへの対策もできています。京産プライドで止めたい」と期待されるプレーを約束する。
「初めての国立競技場です。ワクワクしています」
169センチと小柄も、低さを武器にしてロータックルを見舞う強気な男は、「ひたむきに、いつもの京産のプレーを出せば勝てる」。
スクラムから出た好球を手にしたら、迷いなくトライラインへ駆ける。