福島・勿来工高ラグビー部の小松傑監督は、取材に応じるうちに目に涙をためた。
「嬉しいからです」
12月28日、全国高校大会の初戦で東京・目黒学院高に0-83で敗れた。東大阪市花園ラグビー場・第3グラウンドで、押し切られた。
しかし、過去に優勝経験もある古豪に最後までぶつかった。何より懸命に身体を張っていた選手の歩みを知っているから、大敗しても「嬉しい」。言い換えれば、感動するのだ。
15名いる3年生のうち、中学までに競技を経験した選手は1名のみ。それ以外は初心者からのスタートだったのだ。
「しかも、その半分は途中から入部してきたんです。この舞台で、大丈夫かなぁ、と思っていたのですが、しっかりと戦ってくれた。誇らしく思います。3年生が、頑張ってきたチームです。(ゲームに必要な)15人が揃わない時も学校の友だちに声をかけて試合をすることもあった」
指揮官は続ける。
「私、いつもは怒ってばかりなんですけど、今日は、言うことなしです。いままでタックルできなかった子が、低くタックルに行ってくれたりとか、いままでなかなか前を向いて当たることのできなかった子が、しっかりと足をかいて前に出てくれたりとか…」
声がかすれたのは、このあたりからだ。
「この大会が、大人にしてくれた。本当に、ラグビーをやってくれて、よかったです」
全国大会は25大会ぶり6回目の出場だった。初心者が多かった今年のチームは、県予選のシードを決める地区大会で春の県王者の磐城高を50-0と圧倒していた。時間を重ねるごとに、手応えをつかんでいた。
全てが希望通りとは、いかなかった。
県予選の決勝で地区大会以来の再戦が叶う予定だった磐城高が、決戦の直前になって棄権した。新型コロナウイルスの影響だ。勿来工は、不戦勝で花園行きを決めた。
イレギュラーな形で大会開幕を迎えるにあたり、小松監督が気を付けたことは「やはり、コロナ」だった。
「この舞台に立てないということ(の予防)が、一番、注意したことです。自分たちも、(感染症のため)春の大会を途中棄権したことがあったので」
マスク着用、消毒といった処置はもちろん、十分な栄養摂取と睡眠を確保するよう指示。全部員を24時間監視するのは難しいなか、「保護者の方々も協力してくれて、温かく見守られた」と感謝している。
がまんを重ねた教え子のことも、冗談の口調でたたえる。
「普段はちゃらんぽらんな子が多いんですが、コロナ対策は徹底してくれました!」
嬉し涙を誘った最上級生が抜けたら、チームに残る1、2年生部員は6名だけとなる。競技経験のある入学予定者がいるかも不確かだ。
小松監督は「なかなかラグビーをしにうちへ来てくれる子は少ない。ラグビーがどういうスポーツかも知らない子もたくさんいて…」と苦笑する。
「地道に学校で声をかける。今後もそうしていこうと思います」