叫ぶ声、うなる声が、クリスマスイブの東京・味の素スタジアムに響き渡る。
座席の反対側からの音も明瞭に聞こえる。東芝ブレイブルーパス東京が、「リアル・サウンド・システム」に取り組むためだ。スタッフが持ち歩くマイクが集音し、スピーカーで鳴らす。
この日は国内トップのリーグワン1部・第2節に臨んでいた。前年度9位のリコーブラックラムズ東京と今季初白星を争った。昨季4強のチームは、特殊な場内演出のもと激しい肉弾戦を披露。中盤あたりまでゲームを支配し、17-7で勝利できた。
「試合のスタートはよかった。プレッシャーをかけられた」
チームを率いるトッド・ブラックアダー ヘッドコーチは言う。
途中、ブラックラムズの粘り強い守りで得点機を逃したり、自軍のミスからピンチを招いたりすることもあっただけに「(得点力を上げるには)まず、ブレイクダウン(接点の質を上げなければ)。自分たちのシェイプ(攻撃陣形)を使ってプレーすることができなかった」と反省。もっとも「それは修正可能です」と前向きだった。
「選手の素晴らしい働きを見せられた。これ以上、高いボール保持率、エリア獲得率をキープできることはなかったくらいです。そう自負しています。(もっと必要なプレーを)遂行できていれば、より違った(点差の開く)結果になった」
攻防の起点であるスクラムは概ね優勢。先発の右PRで2年目の小鍜治悠太は、「自分たちのシェイプ(形)を信じて、それを遂行する。あとは(全体的な)低さ、自分の肩の使い方(を意識する)」。時折、レフリーの合図より早く組むという「ミス」を犯したと悔やむが、同世代の仲間と作るパックに手応えを感じている。
小鍛冶がさらに手応えをつかむのは、前半32分頃のひとこまだ。ここではモールの防御が光った。
ハーフ線付近右で塊を作られながら、FW陣が要所へ身体をねじ込んだ。進路を防いだ。
ブラックラムズがボールを出せなかったことで、ブレイブルーパスは攻撃権を獲得した。喜ぶ声をスピーカーに乗せた。
モールを防ぐ要諦は。小鍛冶は笑う。
「これ、話せば長くなるんですが…。まず、しっかり(相手の塊に)入るのは当たり前。そこから変に回したり、回されたりしないようにがまんする。そして、押す時は、左右両方から一気に…」
モールの防御では、ワーナー・ディアンズ、ジェイコブ・ピアスという2メートル超の両LOも怪力を活かしていた。このコンビは相手SHのキックを手で弾いたり、小鍛冶の見せ場だったスクラムでも後ろから圧をかけたりと、八面六臂の活躍だった。
攻めても前に出た。攻撃システムの構造によってか、2人は攻撃ライン上に並び、ひとりが突進し、もうひとりがそれを後方から押し込むことがしばしば。2メートル級の2人が束になってのアタックは、相手にとっては厄介だろう。
20歳と若いディアンズは、かねてこう宣言していた。
「フィジカルの部分でチームをリードする。FWのリーダーとして、前に出る」
ぶつかり合い、球の奪い合いを「リード」したのは、25歳のピアスも然りだった。
17-0とリードしていた後半15分頃。自陣22メートル線エリア右中間で突っ込んでくる相手走者を、NO8のリーチ マイケルとともにつかみ上げる。
レフリーに立ち退きを命じられると、走者から手を離して撤退をアピール。もみくちゃになった密集のなかで再びボールへ絡み、ペナルティキックを勝ち取った。
空中戦でも魅する。
17-7と迫られて迎えた31分、自陣22メートル線付近右の相手ボールラインアウトでピアスが競り合う。この日3度目となるスティールを決めた。
チームを率いるブラックアダーは、FLで先発した伊藤鐘平の名を挙げて言った。
「ラインアウトのディフェンスは強みになっています。自分たちの誇りを持てている部分です。それによって、自分たちのしたい試合展開になった。そこを引っ張っているのは伊藤鐘平です。彼がいい仕事をしている」
ブラックラムズのHOとして投入役を担った武井日向主将は、「ラインアウトでは長身の選手にプレッシャーを受けました。チャンスでもカットされた部分があった」と潔かった。
「精度を、改善しなければいけない。自分たちの求めている基準でできたかと言えばそうではないので。(投入、支柱、跳躍など全項目を)やりきれば捕れていたボールもありました。ドリル(練習)をやり、どんな相手が来ても自分たちのスキルを信じて捕れるラインアウトを作っていきたいです」
今年最後のホストゲームを終えると、ブラックアダーは報道陣へ「すてきなクリスマスをお過ごしください」と謝辞。人格者で鳴らす指揮官は普段、自ら防具をつけてぶつかり合いの練習に参加しているという。
タフなチームはタフな指導者のもとで生まれる。そんな普遍を示すのが、ブレイブルーパスの真骨頂だ。