ラグビーリパブリック

【ラグリパWest】ジャパニーズ・ドリームを。飯塚玲奈 [三重パールズ/ウイング]

2022.12.27

今年9月、女子ラグビーの三重パールズに入団した飯塚玲奈(右)。出身国のカナダを離れた23歳は、母の母国である日本でオリンピックやワールドカップの出場を目指す。斎藤久GM(左)らスタッフはそのサポートにつとめる



 ジャパニーズ・ドリームを得に来た。

 飯塚玲奈の夢は、プロのラグビー選手として生き、成功することだ。

「オリンピックやワールドカップに出たいです」

 愛称は名の「レイナ」。この23歳は8月末、カナダから日本に到着した。太平洋を超える選択は母の母国でもあったからだ。

 来日4か月ほど。日本語は流暢ではない。それでも知っている言葉を並べ、伝えようとする。シェイプされた顔、黒く丸い目はよく動く。知性を感じさせる。

 所属は三重パールズ。正式名称は「Mie Women’s Rugby Football Club PEARLS」。創設から7年目の女子チームは、7人制と15人制の両方で全国トップレベルだ。

「レイナはとりあえずウイングをやっている。ただ、筋力が並外れている。タックルする時は自分も壊れるくらいの激しさがあるで」

 パールズを統括するGMの斎藤久が「とりあえず」と言うのは、レイナは来日までアメリカンフットボールをしていたからだ。この国でラグビーに変わった。
「ピカッと光りました」
 転向はひらめきで決めた。アメフトは五輪種目にないこともある。そして、プレーは細切れになるが、ラグビーに近い。

 その履歴書にはこう書かれている。
<カナダ国内初の男子大学タックルフットボールの女性選手@マニトバ大>
 斎藤が驚くタックルは当然だった。175センチの身長は異性の中に入ってもそん色はない。
「脚も速いで」
 アメフト時代は最後尾のディフェンスバックをつとめていた。

 パールズがレイナの獲得に至った出発点は、斎藤の元に来た知人からの報知である。本人とSNSを使ったやり取りが始まる。
「オリンピックやワールドカップ以外にも、日本に興味があり、住んでみたかった」
 レイナの出身はカナダだが、母のルーツを知りたくなった。

 ラグビーに連なるアメフトを始めたのは9歳の時だった。
「ピカッと光りました。直感。最初はいつもそうです。あとで考える」
 自分の欲求を大切にする。アメフトは人に当たれることなどが楽しかった。

 中高はカナダの首都、オタワがあるオンタリオ州で過ごし、大学は西隣のマニトバ州にあるマニトバ大に進む。真理を探究する哲学を専攻した。趣味は読書である。

「哲学はもちろん、栄養学、心理学、スピリチュアルの本も好きです。今は神道や仏教の本も読んでいます。カナダはクリスチャンやイスラムの人たちが多かったので」

 丹色(にいろ)の鳥居や静寂を放つ神社仏閣など、レイナにとっては見慣れておらず、面白い。パールズの三重には伊勢神宮がある。古来より最高で特別格の宮である。

 日本語は毎日、勉強している。
「大学でも少し習いました。ひらがなは書けます。漢字はバランスが大切だから難しい。日本語には深い文化を感じます」
 日本語はカタカナを含め3種類の文字がある。習得はなかなか骨が折れる。それでもレイナはひたむきに取り組んでいる。

 今はパールズの地元、四日市で一人暮らしをする。自炊の日々だ。
「サバが美味しい。塩焼きにします。野菜、果物、ナッツ類も食べます。ごはんとかパンはあまり食べません。簡単に太ります」
 ペロッと舌を出した。栄養学も勉強したため、自分でコントロールができる。

 このチームは気に入っている。
「選手もスタッフもみんなとてもいい人です。ヘルプフル。最初は車を持っていませんでした。そうしたら練習や試合への行き帰り、みんなが乗せてくれました」
 今はホンダの車を手に入れ、移動手段に困らなくなった。隣の鈴鹿にはこの会社の男子チームがある。

 優しく接してくれるチームメイトは15人制、7人制を問わず日本代表が多い。この10月、ニュージーランドであった15人制のワールドカップには、代表32人中最多の8人を送り込んだ。

 大会は3戦全敗でプール戦敗退となったが、齊藤聖奈、山本実(みのり)は前回2017年のアイルランド大会に続き、2大会連続の出場を果たした。山本は今月、英国のウースター・ウォリアーズに完全移籍が決まった。

 今月18日には15人制の関西大会で6連覇を達成する。九州・ながと合同チームを19−15で降した。来年1月22日は9回目となる日本選手権が開幕する。2つ勝てば2大会ぶり2回目の優勝に行きつく。

 7人制ではメインとなる太陽生命シリーズは総合4位。10月の栃木国体はパールズのメンバーで構成された三重が初制覇する。神奈川に26−5。その後の日本代表のタイ遠征には末結希と保井沙予が選ばれた。

 チームのさらなる上昇の起爆剤としてレイナに対してかかる期待は大きい。
「ラグビーはまだまだ勉強中や」
 斎藤はそれにブレーキをかける。異国からひとりで来たこと、育った環境の違い、年齢などを勘案している。

 そんな斎藤をこう表現する。
「日本のおとうさん」
 この国でも肉親を得て、レイナのチャレンジは始まった。

「ピカッと光った」
 その感性は今、スポーツ、読書、勉強、人との対話などが混ざり合ってでき上がった。レイナにとっては正しいのである。


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