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【ラグリパWest】初めての花園。松田祐一 [立命館慶祥高校/監督]

2022.12.26

立命館慶祥高校の松田祐一監督(左から2人目)。立命館大グラウンドでの北見北斗とのスクラム練習を見守る。初の冬の全国大会出場に燃えている



 松田祐一。43歳。自分にとってもチームにとっても初めての花園である。

「うれしいです。小さい頃からラグビーをやってきて、花園は特別な場所でした」

 道産子(どさんこ)のその声は弾み、丸い目は子供のように輝く。

 今、立命館慶祥の監督として、102回目の全国高校大会に挑む。南北海道の代表だ。40年近い夢がかなう。競技を始めたのは幼稚園。札幌少年ラグビースクールだった。

 チームは12月20日、関西に入った。ベース地は滋賀の草津。ここで兄貴分の大学の人工芝グラウンドを使わせてもらう。ジャージーは同じ黄×紺の段柄である。

 滋賀から大阪へ。会場となる花園ラグビー場までの時間を鬼束竜太が答える。
「高速を使えば1時間もかかりません。行きは下りなので渋滞もほとんどありません」
 鬼束は大学のヘッドコーチとして、関西Aリーグの試合で何度も往復している。

 中高一貫が主体のこの学校は札幌の隣、江別にある。ここ草津との違いは雪である。
「来る前には30センチほど積もりました」
 大学のグラウンドでは3時間ほどの全体練習が終わっても、部員たちは抜き合いなどを続ける。雪に邪魔されないことがうれしい。

 先生、何時までここにいていいですか?
「何時までって、めしも食えよ」
 気持ちはわかるが、必要なことも言っておく。松田は保健・体育の教員でもある。

 主将の久保田慧は松田に感謝がある。
「先生は温厚で、声を荒げることはありません。僕たちをずっと見てくれていて、時々声をかけてくれます。いつも冷静です」
 この3年生SOは長いキックが光る。180センチ、87キロと体格もいい。

 松田は笑みを浮かべる。
「この3年生はラグビーを知っている子が多い。だから、まずやらせてみます。そして、それそうになった時だけ修正します。まあ、我慢していることはいっぱいありますがね」
 この競技は瞬時の判断は選手たちにゆだねられる。普段からそれに近い状況を作る。

「まずはクラブやスクールでやってきた子たちが入ってきてくれたことですね」
 松田は花園初出場の理由を話す。両CTBの三浦遼太郎と石岡泰一の名が挙がる。三浦は北海道バーバリアンズジュニアの出身。182センチ、86キロの体を持ち、チーム唯一の高校日本代表候補。石岡は山の手ラグビースクールにいた。伸びやかな走りが魅力だ。

 そこに弟分の中学での経験者が加わる。
「レギュラー15人中8人がそうです」
 SOの久保田もそのひとり。中学は今月初め東日本3位に入る。東日本中学大会では、決定戦で東京・千歳に26−25と競り勝った。

 三浦、石岡、久保田、それに左足の蹴りが伸びるFBの本田偉士(いし)などBKはメンバーがそろう。展開とキック。相手によって戦術を使い分けられるのも強みだ。磨いてきた前に出るディフェンスもある。

 今春は23回目となる選抜大会にも初出場した。実行委員会推薦枠である。初戦は長崎北陽台に不戦勝。2回戦は國學院栃木に10−45と敗れるも全国を初めて経験できた。

 花園へは一番乗りを決める。9月24日の決勝戦は札幌山の手に18−7。4強戦は函館ラ・サールに41−21。長く南北海道の覇権を握っていた2強を連破し、風穴を開ける。この2校は2000年度の80回大会から代表の座を独占していた。札幌山の手は20回、函館ラ・サールは3回の出場記録が残る。

 立命館慶祥の創部は1996年(平成8)。札幌経済から校名や経営が変わったのと時を同じくする。大学ラグビー部のGMをつとめる高見澤篤はその進学校ぶりを説明する。
「立命への内部進学以外にも東大の理Ⅲ(医学部)や京大の医学部に入る子もいます」
 高見澤は還暦後の今も大学職員として勤めを続けている。そのため内部事情に詳しい。

 松田は2008年にこの学校に赴任した。それまでは非常勤講師として母校の札幌南や札幌東などで教えていた。
「松浦先生から、どうや、って声をかけてもらいました」
 前監督の松浦守哉はその後、京都の立命館宇治に異動。現在はラグビー部の顧問である。

 松田は2016年に監督に就任。7年目に花園出場をつかむ。その練習は週2日のオフを入れる。月曜と水曜だ。
「勉強のためもあります。月曜は練習してもいい日。個人任せ。僕は見ています」
 登下校の手段になるスクールバスの最終は午後7時。それまでに練習は終わらせる。通常の全体練習は2時間30分ほど。グラウンドは土だが、全面を使用できる。

 松田が部員の意志を尊重するのは、体育会と比べて自由な大学のクラブチーム出身ということもあるのだろう。早大ドンキホーテにいた。ここには母校を同じくする者がいた。日大の文理学部に進んだが、浪人ということもあり、競技部(体育会)での続行は気後れする。現役時代はSOだった。

「クラブラグビーを満喫しました。思い出は飲みですね。ビールとおぼしき物体をひたすら飲んでいました。歌舞伎町ですね」

 表情が崩れる。覚えているのは日本有数の歓楽街、新宿のまばゆいネオンと酒。ラグビーのみにとりつかれていなかった分、包容力は大きい。教員免許は在学中にとった。

 その経験すべてが、今回、初めての花園出場につながった。1回戦は12月28日、石見智翠館(島根)と戦う。
「今は智翠館のことだけを考えています。そこだけ。あとのことは考えられません」
 相手は出場32回。最高位は4強を誇る強豪だ。キックオフは午前10時。メインの第一グラウンドでプレーできる。

 慶祥の意味は「めでたいしるし。吉兆」。今回、道大会でそれが出た。松田はここからさらに、女子マネ7人を含めた40人の部員たちとともに、運を開いてゆきたい。


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