身長191センチ、体重110キロの巨躯を低く沈める。タックルまたタックル。接点の周りでは、相手のキックをジャンプ一番で跳ね返して雄叫びをあげる。
12月4日、東京・国立競技場。伝統の早明戦こと関東大学対抗戦Aの早大戦にあって、明大4年の武内慎は元気だった。パワーと高さの請われるLOで先発し、最後まで献身した。
「周りを鼓舞し、コンタクトで引かずに前に出る」
大阪の文の里中を経て越境入学した島根の石見智翠館高では、2年時に高校日本代表入り。学校の制度で、ニュージーランドのウエリントンカレッジへ留学できたのもよかった。市井に楕円球が根付く日常を暮らし、ラグビーの楽しさを再認識できた。
ラグビーの厳しさに触れたのは、明大に入ってからか。
2年生だった一昨季は序盤こそ主力に定着も、終盤には上級生に定位置を奪われた。練習へのモチベーションが下がったと見られたのか、滝澤佳之コーチから叱咤された。
「お前、今年はあきらめたのか」
指摘されたのは伸びしろだ。いかなる状況でも一貫性を持って戦い続けられるようになれば、もっと首脳陣が起用しやすい選手になれるはずだ。武内はそう理解した。
「僕は、浮き沈みの激しい人間でした。安定したパフォーマンスが大事だと、滝澤さんに言われ続けてきました。それからフォーカスする対象が、自分になりました。チームがどう、誰がどう、ではなく、いまの自分がどういう立ち位置にいて、どんなプレーをすべきかを見つめ直すのが大事だとわかりました」
いまは正LOとして暴れながら、周りの心にも気を配るという。もしも2年前の自分のように意気消沈した下級生がいたら、手を変え、品を変え、改心を勧めたい。
「できるだけ(過去の)自分と同じような経験はして欲しくない。後輩が戦える環境を作ってあげられたら。全員を見られるわけではないですけど、(参加する主力グループの練習で)後ろ向きになっている奴がいたら『やればできる』と声をかける。僕ができたんで、絶対にやればできる」
武内に変わるきっかけを与えた滝澤は、事実確認を求められ「(過去の武内が)僕に、そう(ネガティブに)見えたから言ったということじゃないですか」と笑った。
明大のFWを熱血指導する滝澤が話したのは、12月10日。東京・秩父宮ラグビー場での大学選手権準々決勝を、15日後に控えていた。
その時はちょうど「ルビコン」と呼ばれる3軍以降のグループの練習をコーチング。下級生の居残り練習を支える上級生の姿に触れ、「ちょっと、4年生の雰囲気が変わってきた」と話した。
「少しでも、チームに何かを残そうとしている」
大学ラグビーシーンにおいて、ゲームのメンバーに加われない4年生の態度はチームの空気を左右する。滝澤も、全ての4年生が仲間を思いたくなる空間づくりが「大事」だと語る。
「それがなければ勝っても意味がないし、それがあるから勝てるんだと思います」
さかのぼって11月以降、試合当日のウォーミングアップの手伝いをメンバー外の4年生がするようになった。緩衝材を手に持ち持ち、決戦に臨むメンバーのタックルを受ける。
武内は「痛くて嫌だと思うんですけど…。僕らも、こいつらのためにやってやろうと思える」と感謝する。普段の様子も前向きにとらえる。
「練習のクオリティ(が変わった)。以前は試合に出ているか、出ていないかによってかかわり方が浅い選手もいたのですが、いまはリーダーたちが『ひとつひとつ、こだわるぞ』と言っている。それが少しずつ、少しずつ、チームのまとまりに変わってきている」
夏場はインフルエンザの流行をはじめ受難続きだった明大は、ここにきてようやく地力を備えたか。武内は、入学直前のシーズン以来となるクラブの大学日本一を見据える。25日は早大と再戦する。