ラグビーリパブリック

【ラグリパWest】自信を胸に全国へ。尾道高校

2022.12.22

優勝候補の報徳学園を招待試合で降し、意気揚々と全国大会に臨む尾道高校。その中心である共同主将の青田宗久、寺田結、そして田中春助監督(左から)



 JRの東尾道を過ぎると、車窓に青い瀬戸内海が迫って来る。そして、造船所、いわゆるドックが現れる。白にわずかに緑の混じったクレーンが天を衝くようにそびえる。

 そのドックに赤い旗が林立する戦前の労働争議が『放浪記』には出てくる。著者は林芙美子。この小説家は広島県東部にあるこの尾道で育った。

 80年代には映画監督の大林宣彦が『時をかける少女』などの「尾道三部作」を作り上げた。この街は海があり、小高い山もあり、神社仏閣も多い。風光明媚である。

 尾道の駅前から渡船に乗る。つーんと鼻にくる潮のにおいを5分ほどかぐと、対岸の向島に着く。ここに私立の尾道高校はある。

 ラグビー部は16年連続17回目の全国大会出場を決めた。この102回目の大会は開催ラグビー場から「花園」と呼ばれる。

 3年生SOの青田宗久は目標をかかげる。
「優勝です」
 共同主将をFBの寺田結とつとめる。青田は昨年からのレギュラー。尾道の特徴であるワイドアタックの中心を担う。

 青田の言葉は大会直前の結果にもよる。10日ほど前の12月11日、報徳学園を21−15で破った。報徳学園は春の選抜、夏の7人制を含めた4校目の「高校ラグビー3冠」を狙う。この花園も優勝候補。東福岡と2校のみのAシード校に選ばれた。

 青田は勝因を口にする。
「僕たちのやっているシャローのディフェンスが、はまったと思います」
 前に出るタックルで報徳学園を封じ込めた。
「相手はケガ人がいましたから」
 OB監督の田中春助は謙遜を交えた。

 田中は来年3月で35歳になる。地元の福山大を経て、英語科の教員として戻った。監督として4年目。その前はコーチで13年、さらにSOなど選手として3年。ほぼこのチームの歴史を知っている。

 その創部は2002年(平成14)。梅本勝が赴任して作った。梅本の倉敷高校への転出後、田中がチームを受け継ぐ。監督として戦った3回の花園の最高は3回戦進出である。

 田中はその3回を振り返る。
「Aシードと当たることが多かったです」
 99回と101回は京都成章と桐蔭学園と対戦する。14−32と12−41。100回の京都成章は7−28。この時の京都成章は一段低いBシードだったが、決勝に進出した。

 今大会は12月27日の1回戦で朝明(あさけ)と対戦する。勝てば常翔学園。Bシード校。花園優勝5回、歴代5位の記録を持つ。
「朝明と常翔学園はスタイルが似ています。FWがどんどん来て、BKに展開します」
 2校のアタックを自慢のディフェンスで止めてゆく。田中の描く戦い方だ。

 その守りを作り上げる尾道の放課後練習は週2日。火木のみ。午後5時からの2時間である。田中は解説する。
「僕らの時からそうです」
 朝練習は週4日。火水木金。6時30分から1時間ほどを費やす。

 空き時間は校内施設でウエイトトレに励む。
「ベンチプレスのマックスは20キロ増の125キロになりました」
 青田の体は強靭になった。

 放課後の練習が週2日なのは、勉学のためだ。青田は阪神間にある芦屋ラグビースクールの出身。親元を離れた理由を話す。
「文武両道のためです」
 今年3月、ラグビー部を巣立った卒業生は九州大や筑波大に現役で合格した。過去には東大や京大への入学実績もある。

 この学校の創立は1956年(昭和31)。全日制共学校であり、普通、機械、電気の3科制である。普通科は最難関、難関、総合、スポーツの4コースがある。田中は説明する。
「最難関と難関の2つに部員の55パーセントが在籍しています」
 部員数は88。選手1人と女子マネ4人を除き、青田ら83人は寮で寝起きする。

 文武両道を目指す尾道は今年も春の選抜と夏の7人制に出場した。春は23回大会。2回戦敗退。佐賀工に0−25だった。夏は9回大会。8強敗退。東海大仰星に7−33だった。この花園予選の決勝は崇徳を67−0と圧倒した。県内での敵なしの状態は続いている。

 その強さを維持し、田中を補佐するコーチは4人いる。その内、教員は2人。保健・体育の林宣樹と数学の新井(にい)詠士。林は関西創価から流経大に進んだ。新井はOB。広島大を卒業後、母校に戻る。学校職員としては南宗成(なむ・じょんそん)がいる。大阪朝高、明大、マツダでLOだった。

 美濃田樹(いつき)はコーチと一般社団法人「BRAVE SHIPS」(ブレイブシップス)の代表理事を兼務する。法人化は昨年7月だ。
「チームのお金の管理などをしてもらっています。教員の僕がやるよりもいいです」
 田中とは同期。美濃田は立大に進学した。

 BRAVE SHIPSは今年4月、小中学生向けのアカデミーを発足させた。開催は月3回、木曜夜。高校の練習後、人工芝のグラウンドを使って、ラグビーを教える。4人のコーチや高校生たちが指導役をつとめる。

「地域貢献です。別に高校はウチに上がってもらわなくても構いません」
 田中は日焼けした丸い顔を崩す。現在の競技や所属に関係なく、自由に参加できる。

 まだ見ぬ頂点に向け、さまざまな手を打つ。チーム愛称は「ブリカンズ」。勇気の「BRAVE」と漢(おとこ)を合わせた造語だ。ジャージーは青と白のグラデーションである。
「名前とジャージーは変えません」
 田中は恩師・梅本をリスペクトする。

 このチームの花園最高位は4強進出。94回大会(2013年度)だった。優勝する東福岡に12−40。その記録を超えてゆきたい。


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