ラグビーリパブリック

デクラーク初陣の開幕節は課題残しながら勝利。イーグルスの「マインドセット」。

2022.12.21

スティーラーズ戦でボックスキックを蹴るイーグルスのファフ・デクラーク(撮影:大泉謙也)


 ウォーミングアップのためにバックスタンドの前へ駆け出すだけで、ざわめきを起こした。

「すごく嬉しかったです。横断幕やタオルも見えました。歓迎されていると感じました」

 現役南アフリカ代表のファフ・デクラークが12月18日、横浜キヤノンイーグルスの一員として国内リーグワンでのデビューを飾った。コベルコ神戸スティーラーズとの初戦で22-13と9点リードの後半14分に登場した。

 11月の代表戦で故障した足首が「治療しながら改善している。まだ100パーセントではない」という状態ながら、SHの職務は全うした。

 登場して間もなく、自陣ゴール前での防御局面で右中間から左端へ大回り。対するスティーラーズがそちらへパスを回すのを読んだ。SOの田村優とともに球の受け手へタックルし、攻守逆転につなげた。

「相手がワイド、ワイドで(左右にパスを)振ってくるのがわかっていて、BK陣は揃って向こう側(パスを回す方向)へ行っていた。それが見えたらスペースをカバーしに行くのが、9番(SH)の仕事です」

 攻めては球さばきの緩急、機を見ての持ち出し、蹴り上げるだけで歓声を招くハイパントで魅了。帰り際の通用口では記者団を向こうに、口角をあげた。

「やればやるほど(チームに)フィットしてくると思います。正直に申し上げて、日本のラグビーは思ったよりもフィジカル。きょうはやや(展開が)スローでしたが、(今後は)ボール・イン・プレーの時間が増やせてフェーズを重ねられるようになると思います」

 イーグルスとしては千両役者を投じ、本拠地である神奈川・ニッパツ三ツ沢球技場に集まった8,710人の観客を喜ばせるのには成功。何より2018年の旧トップリーグ王者であるコベルコ神戸スティーラーズを39-30で下し、クラブ史上初の4強入りへ必要な結果も出せた。

 しかし、その内容には「課題も多かった」と梶村祐介主将。インサイドCTBとして好突破を連発も、チームが犯した反則数は13。相手より2つ多い。就任3季目の沢木敬介監督は「レフリーに嫌われてんのかな」と冗談を口にしながら、こうも振り返った。

「崩されたというより自分たちから崩れた場面が多い。今日はディシプリンのところ(が問題)。それを意識できる、いい勉強になりました」

 視点を変えれば、相手に多くのチャンスを与えながらしのいで勝ったとも取れる。土俵際で耐えたのはFW陣だ。

 再三、自陣ゴール前でラインアウトからのモールを合法的に封殺。そのうち24分頃の1本では、まずLOのコリー・ヒルが捕球役と後方の支柱との間に腕を差し込む。ここから正面、タッチライン側の進路を岡部崇人、杉本達郎の両PRらが刺さって止める。

 スティーラーズが中央方向に塊を動かせば、そのコースもHOの川村慎、LOのマックス・ダグラスらが封殺。特にダグラスの圧力はスティーラーズの塊をふたつに割り、モールからボールを出せないアンプレアブルの反則を誘った。

 対するスティーラーズのFLである橋本皓主将は「(原因は)自分たち。自分たち(の連携不足)で、(塊が)分かれていってしまっていた」と話すが、しのいだ側の実感は違った。

 移籍1年目で先発の川村は、スティーラーズのモールとその周辺でのアタックオプションを警戒していたと話した。

「(スティーラーズは)FW、BKの切れ目を狙ってくる。コミュニケーションをしっかり(取って止めた)」

 前主将の田村は、司令塔のSOへ入って看板の組織だった攻めを動かす。

 前半8分に追っ手を振り払いながらのトライを披露し、防御網の裏へのキック、タックラーを引き付けながらのパスで味方を勢いづけた。

 防御を崩した直後に味方がパスをつなげられない局面もあったが、それについても手応えの裏返しと取れる感想を述べた。

「直さなきゃいけないところがあった。それなかったら(精度次第では)、60点くらい取れたんじゃないですか。あれ(思わぬミスなど)で負けてしまう可能性があるのが開幕戦。負けないようには、ラグビーを、しました」

 イーグルスは現体制3季目に入った。昨季はシーズン終盤のガス欠で4強を逃しており、沢木監督は「(失速の要因は)選手層」。タフなシーズンを走破できるよう、負荷の大きな前列には川村、杉本ら職人を補強していた。

 その流れで競争心も煽る。デクラークとの契約には、外国人の出場枠争いを激化させたい狙いもある。

 元ウェールズ代表のヒルはこの午後2トライを挙げたこともあり、プレーヤー・オブ・ザ・マッチを受賞。ダグラスも今季加入して早々の練習試合で猛アピールし、開幕節へ出る権利を得ていた。

 今回、苦しみながらも白星を得られた理由を問われ、指揮官は「やっぱり、マインドセットじゃないですか。今年のスローガンは『WINNERS MINDSET』。皆がそれを意識している」。勝利への執念と緻密さがにじむ、理想の集団を仕上げつつある。

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