日本ラグビー界で最も古くからあるチームの慶大が歴史を塗り替えたのは2019年。クラブ史上初めて、海外で生まれ育った留学生選手を仲間に受け入れたのだ。早大、明大といった関東大学対抗戦Aのライバルに先んじて、新たな地平を開拓した。
スポーツ推薦を持たない伝統にならい、外国語による入試を経てアイザイア・マプスア、イサコ・エノサが加入。インサイドCTBだったエノサは家族の事情で今春、退部したなか、LO、NO8のマプスアは最後のシーズンに熱を込める。
「4年目は…きつかった! でも、このシーズンは、頑張った」
12月11日、東京・秩父宮ラグビー場。大学選手権の3回戦に5番で先発した。193センチの長身を生かし、対する流経大ラインアウトへ再三、プレッシャーをかけていた。
結局、関東大学リーグ戦1部で2位だった流経大には45-5で勝利。25日の準々決勝へ駒を進めた。4年生のマプスアにとって、ラストシーズンが伸びた格好だ。本人は言う。
「(勝って)嬉しいです。次の試合も頑張ります」
ニュージーランド出身。日本では母国と比べて1日当たりの練習量が多く、最初はカルチャーショックを受けた。2年目以降は、折からのウイルス禍で帰省できる回数が減った。今年に至っては、同級生のエノサの退部で寂しさを覚えた。
それでもラストイヤーが本格化すると、「ハードにトレーニングするようになった。最後の年だから、マインドセットを変えるのは簡単です」。その言葉通り、入学当初から得意だった突破、オフロードパスに加え、防御でも目立つようになった。対抗戦では4位だったが、関係者からの注目度は高まった。
同期でFLの今野勇久主将は言う。
「マプスアが頼もしいです。(チームの士気が)落ちている時に『行こうぜ!』と日本語で声をかけてくれて、皆が刺激を受けることもあります。ただただ自分がよければいいというのではなく、チームがどうすればいいか(を考えているように映る)」
仲間の奮起を促すマプスアの背後には、仲間がいた。チームは今夏の山中湖、菅平高原での合宿中、担当の部員を設けてマプスアのための日本語教室を開いた。
提案したのは栗原徹監督。「日本語検定2級くらい、取れよ」と発破をかける。この検定の合格率は10パーセント前後と言われているが、卒業後も日本でプレーがしたいというマプスアに対して適したお題を与えたつもりのようだ。
「留学生も1人になったので、チャンスだなと。結構、しゃべれるようになりましたよ」
流経大戦後、マプスアは日本語と英語を交えて取材に答えていた。準々決勝では関西大学Aリーグ王者の京産大とぶつかる。「毎試合、ベストパフォーマンスが出せるようにしたい」と先を見据えた。