ハイネケン・チャンピオンズカップが開幕した。今季から南アフリカのストーマーズ、ブルズ、シャークスが参戦する新たなフォーマットでの大会となる。大会運営団体のEPCR(ヨーロピアン・プロフェッショナル・クラブ・ラグビー)は南アフリカのチームの加入により10〜15パーセントのテレビ視聴者の増加を目指している。
しかしフランスでは『ヨーロピアンカップ』という名で親しまれており、「ヨーロッパの大会としてのアイデンティティーが失われる」と違和感を訴える声が多い。
トゥールーズのSHアントワンヌ・デュポンも「僕たちの世代は、歴史のある伝説的な大会としてヨーロピアンカップに憧れてきた。もはやヨーロピアンカップではなく新しい大会だと受け止め、新たなチームと対戦できるというポジティブな面を見るべき。それでもまだ少し理解に苦しむけど」と初戦のマンスター戦前の会見で本音をのぞかせた。
新たな大会の第1節において、フランスで最初に南アフリカのチームを迎え撃ったのはクレルモンだ。相手のストーマーズは昨季ユナイテッド・ラグビー・チャンピオンシップ(以下URC)で優勝しており、今季も同リーグで現在3位。対するクレルモンはトップ14で現在10位。
試合前の予想はストーマーズが優勢だった。前半を3-14とリードされて終えたクレルモンだが、後半は形勢を逆転させた。46分にSOジュール・プリソンが右の大外にパスを飛ばして今季新加入のFBアレックス・ニューサムのトライを、62分には左の大外のWTBアリヴェルティ・ラカに大きく飛ばしパスをしてトライを演出、その後もPGとDGで確実に得点し、ストーマーズに追加得点を許さず24-14で勝利した。
試合がおこなわれた時間の現地の気温はマイナス2℃。しかし、スタジアムで熱く声援を送った約14,000人のクレルモンのサポーター『イエロー・アーミー』は寒さを忘れたに違いない。
一方、フランスのクラブとして初めて南アフリカへ渡って試合をしたのがリヨンだ。月曜日にリヨンを出発し、火曜日の朝プレトリアに到着した。20℃以上の気温差と1350メートルの高度にも身体を慣らさなければならない。フランスの他のクラブもリヨンの動きに注目している。
リヨンのNO8アルノ・ボタはブルズから今季移籍してきた地元出身の選手で、「チームメイトに我が家にいるように感じてもらいたい」と水曜日には彼の母親の家にチームを招待し『ブラーイ(南アフリカのバーベキュー)』を振る舞った。
翌日はタウンシップの子どもが通う小学校を訪問して児童と交流し、ラグビーボールやTシャツ、文房具などを寄付した。道中でバスがタウンシップに差し掛かると、選手たちはそれまで見ていた携帯電話から目を離し窓越しに見える風景をじっと見ていたと同行したレキップ紙の記者は伝える。
🇿🇦🐺 𝗠𝗘𝗥𝗖𝗜 à la Retharbile Primary School de Hammanskraal pour ce moment fort 😍
— LOU Rugby (@LeLOURugby) December 9, 2022
La LOU Attitude en terres sud-africaines. + 𝑑’𝑖𝑛𝑓𝑜𝑠 𝑠𝑢𝑟 𝑙𝑜𝑢𝑟𝑢𝑔𝑏𝑦.𝑓𝑟https://t.co/YolsOBQOuq pic.twitter.com/EQoiz7XdhG
試合当日の朝には、高さ9メートルのネルソン・マンデラ氏の銅像を見学し、どっぷりと南アフリカを体験した。この体験が試合に活かせたのだろうか。
ブルズは昨季のURCで準優勝、今季は現在2位。対するリヨンは、チャンピオンズカップの格下の大会に当たるチャレンジカップで昨季優勝し、トップ14では現在6位。しかも慣れない土地でのプレー。ブルズの勝利が予想されていた。
試合が始まり23分までにブルズがボーナスポイントを与えられる4トライを立て続けに決め、このまま戦前の予想通りの展開になるのかと思われたが、リヨンが目覚めた。その後、前半終了までに2トライ返し、後半はどちらもボールをつないで展開するスピーディーなゲーム運びでトライの取り合いとなった。
80分のサイレンが鳴る直前にブルズの選手がタッチにボールを持ち出した。その後のラインアウトからリヨンは攻め続ける。一時は自陣22メートルまで戻されたがターンオーバーして再び敵ゴールへ攻め上がる。足の動きは重くなっているがボールをつなぐ。
82分にラインブレイクしようとしたリヨンの身長171センチのアレクサンドル・チャプチェを止めようとしたブルズの選手の手が首にかかった。ブルズ22メートル、ゴールポスト正面でペナルティを得た。ビスマルク・デュプレッシーをはじめ、ブルズの選手も総立ちで心配そうに見守る。リヨンはタッチに出しゴール前ラインアウトで再びペナルティを得る。
再度タッチを選択し、ラインアウトからモール。しかしブルズがガッツリ押し込んでくる。なんとかボールを持ち出し右へ左へと振りながらスペースを見つけようとするが、とうとうパスがつながらず、ラックでペナルティをとられた。
42-36でブルズの勝利となった。しかしリヨンも5トライ挙げており、さらに7点差以内の敗戦でボーナスポイントを2点獲得した。
試合後、リヨンHCのグザビエ・ガルバジョザはチームの序盤のパフォーマンスを残念がっていたが、選手たちはこのレベルでも戦えると自信が得られたのではないか。しかもリヨンは数人の主力選手を欠いていたのだ。
むしろ、最後まで手に汗握るこの試合がおこなわれた5万人収容規模のロフタス・ヴァースフェルドに7,183人しか観客が入っていなかったことの方が残念に思える。