ラグビーリパブリック

ジャージィ管理で喝。明大3年で寮長の池戸将太郎が目指す「当たり前」とは。

2022.12.05

後半34分、トライを奪った明大・池戸将太郎は雄叫びをあげた。(撮影/松本かおり)



 柄ではないのかもしれない。ただ、気持ちがよかった。

 12月4日、東京は国立競技場。明大ラグビー部3年の池戸将太郎が、伝統の「早明戦」で鮮やかなトライを決めた。

 後半34分、敵陣ゴール前でパスをもらうや前傾姿勢で直進。2人いるタックラーの間を切り裂き、ポールのほぼ真下にグラウンディングしたのだ。

 このトライが直後のコンバージョン成功ももたらし、35—21とほぼ勝負を決める。

 その後は仲間に故障者が出たため、持ち場である司令塔のSOから今季初のSHへ「異動」。リードした展開での途中出場を果たしたこの日は、歓喜の輪を作ったうえにアクシデントへも対応した。

 関東大学対抗戦Aの最終節でもあるこの一戦で、そのまま早大に勝ち切った。3万5438人の観客の前で、安堵の顔つきだった。

 これで明大は対抗戦を2位で終えた。決まっていたレギュレーションに倣い、すでに開幕している大学選手権へ12月25日の準々決勝から参加する。

 池戸は4季ぶり14度目の日本一を目指すよりもまず、明日からすべきことに焦点を当てる。

「自分たちにフォーカスして、今日できなかったところを伸ばして、もう1回、明治らしいラグビーができるように頑張ります」

 出身は神奈川の東海大相模高。エース格だった。系列の東海大への進学も期待されそうだった。しかし、本人が選んだのは異なる道だった。

 高校の三木雄介監督に「気にするな」と言ってもらえたことで、高校2年時に大学日本一となった名門で「どこまで通用するか」を試せることになった。

 全国の俊英が集う明大で、1年目から主力争いに絡んだ。同級生の伊藤耕太郎らとSOの座を争うなか、圧力下でも「余裕」を持ってプレー選択ができるようになった。

 昨季途中に就任した神鳥裕之監督のもとでは、グラウンド外でも存在感を発揮する。3年目の今季はまず副寮長となり、途中から本来4年生の務める寮長に昇格した。

 求めたのはモラルだった。

 80名超が共同生活をする世田谷区内の寮へは、一定の規律が必要だと考えた。

 トイレットペーパーがなくなっていたら、芯を捨てて新しいものと入れ替える。スリッパが乱れていたら揃える。

 池戸にとっての「当たり前のこと」を誰でもできるよう、のびのびと暮らす下級生の動きに目を光らせるようになった。

「特にルールを決めているわけではないし、ルールにするのもおかしい。ひとりひとりの当たり前のことをやる。それ(普段の暮らしぶり)がラグビーに繋がっているとは言い切れないですけど、そう言われてもしゃあないと思うので」

 もちろん、先輩が後輩を私用で使う、後輩が先輩に話しかけるのを禁じるといった過度な上下関係には、「それがあっていいことはひとつもない。生活しづらいのはラグビーにも影響する」と否定的だ。そもそも人に注意したり、咎めたりするのは互いに快適ではない。

 それでも「喝」を入れたのは、対抗戦を2、3試合ほど消化した10月頃のことだ。

「紫紺」と呼ばれる試合のジャージィが丁寧に保管されていなかったり、汚れをつけたままだったりしたことが続いたからだ。

 チームには、1年生が「紫紺」を手洗いする伝統がある。洗剤での色落ちを防ぐための習慣だ。

 部内で丁重に扱われる「紫紺」にルーキーイヤーから袖を通してきた池戸は、ジャージィの管理を改めるべく後輩たちを集めた。

 いずれ自分が着るかもしれないジャージィを、なぜ大切にできないのだ!

「あんまり怒りたくないですけど、わかってもらうためには怒らないといけないのが寮長の辛いところで」

 今度の早明戦では、池戸に集められた1年生のうち2名がメンバー入りした。ジャージィの価値を再認識した結果か。そう水を向けられれば、寮長は「(心が)変わってくれたらいいんですけどね」と笑った。

 池戸らとの競争の末に先発SOとなっている伊藤は、「今年の4年生は1年生に対してもフレンドリーで、いい雰囲気を作ってくれた。ただ、それが原因かはわからないですが、緩い部分がある。僕たちの代は、しっかりやっていきたいです」と話す。

 同級生の寮長にも、全幅の信頼を置く。

「だめなものはだめと言ってくれる」

 シーズン終盤戦。池戸が気になるのは、試合に絡まぬ下級生のモチベーションだ。

 今季中のレギュラー入りが難しくなった後輩に「今年は諦めよう」と思わせないことが、練習の緊張感に反映される。

 万が一、空気が弛緩すれば、心を鬼にして苦言を呈する。

「それが響かなければ、今年のチームはそこまでかな…というのでは、今年の4年生に申し訳ない。最後までやることはやります」

 何も言わないで後悔するよりは、多少、心に負荷をかけてでも頂点に立ちたい。


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