ラグビーリパブリック

チームを勝たせる SOがジャパンの10番を着る。松田力也[埼玉ワイルドナイツ]が復活

2022.12.04

復帰戦は40分プレー。「開幕戦からやる気満々でいくつもりです」。(撮影/髙塩隆)

痛めた左足は以前より安定。背中を鍛え込み、コンタクトも強くなった。(撮影/髙塩隆)



 青いジャージーの背中には、チーム内の持ち番号である25番があった。
 しかし10番の仕事を当たり前のように実行した。松田力也がピッチに戻った。

 12月3日に熊谷ラグビー場で開催されたファン感謝マッチ2022。埼玉パナソニックワイルドナイツ×東京サントリーサンゴリアスがプレシーズンマッチをおこない、3445人のファンが集まった。
 松田は40分×3本の変則試合の最初の40分に出場した。

 合計で35-26とサンゴリアスが上回った120分。最初の40分は26-21とワイルドナイツがリードした。
 松田は判断良くチームを動かし、4トライを引き出す。3つのコンバージョンキックも決めた。

 ほぼ7か月ぶりの実戦だった。
 リーグワン2022の第16節、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦(5月7日)に先発した松田は、開始3分に左膝を痛める。
 その瞬間「それまでにないヒザの動き具合と、ずれた感じがありました」と振り返る。

 普通じゃないと思う自分と、それを認めたくない自分。
 MRI検査を受ける際、「何もないでくれ(大きな怪我でないように)」と願いながらも、重い気持ちになって沈んだ。
 結果は左膝の前十字靭帯断裂の大怪我だった。

 昨秋の欧州遠征最終戦、スコットランド戦で日本代表の10番を背負った。リーグワンでも13戦(すべて先発)に出場し、快調に走るチームをリードした。
「良い流れでいけていたので、(リーグワンで)優勝し、その先の日本代表でもいいパフォーマンスを続けようと思っていた」と当時の心境を振り返る。

「先を見過ぎたから怪我をしたのかも、と思います。一つひとつ、目の前の試合にしっかりコミットしてやっていくのが大事とあらためて思いました」
 復帰を果たしたいま、「いい経験をした」と言える。心身ともに、ひと回り大きくなって戻ってきた。

 ホームスタジアムに久しぶりに立った40分を振り返り、「ゲームにすんなり入れた」と笑顔を見せた。
「まだまだいける感じでした。フィジカル面で強くなって戻れた。怪我をした膝だけにフォーカスせず、全体のボリュームをアップできました」

 受傷後、約2週間後に手術を受けた。不安に揺れる時期を、信頼する佐藤義人トレーナーがサポートしてくれた。
 術後を考えた手術前のトレーニングに始まり、リハビリ期間中は延べ3か月に渡り、ともに復帰に向けて鍛えた。
 故郷であり、佐藤トレーナーが拠点を構える京都で強くなった。

 一時は約48センチまで落ちた太腿の太さはトレーニングの結果60センチとなり、逆の太腿を超えた。
 そこまで鍛えた後に、左右のバランスを整える。現在は58センチとなって調子がいい。

 全身のトレーニングにも励んで体重も増えたが体脂肪は変わらない。
「手術後、膝が腫れたことは一度もないし、むしろいまは左足の方が安定している」と表情は明るい。

 復活までの日々の途中、気持ちを奮い立たせてくれたのは日本代表であり、来年に控えるワールドカップ(以下、W杯)の存在だ。

 怪我をした直後、佐藤トレーナーに勇気をもらった。「(逆算して)W杯には間に合う。前より強くして(グラウンドに)戻す」の言葉が支えになった。
「チームがオフの間、誰よりも頑張った自負があります」。

 ジャパンの仲間たちのパフォーマンスは映像を通して見つめた。
「(自分も)あの場所でプレーしたい、経験したい、という思いはありました。僕ならこうしたいな、ああしたいな。と一歩引いた見方もできて、いい時間を過ごせました」

 モメンタムを得ている状況かどうか。攻める、攻めない。キックを蹴るならどこへ。
 そんな感覚で試合を見つめて頭のトレーニングはできた。しかし、「実際にピッチに立たないと分からない感覚がある」と、実戦不足を自覚する。
「リーグワンの中で、そこを積み重ねていきたい」と意欲をみせる。

 状況を見て判断し、動くのが自分の強みだ。ワイルドナイツでも日本代表でも、その力を発揮して信頼を得たい。
 10番しか着たくない。「それ以外はやりたくないというわけでなく、10番にこだわりを持ってプレーしたい。そのために積み重ねてきている」と話す。

「チームでも代表でも(10番の)競争が激しくなっています。それぞれ(の選手に)色があるし、僕が入れば僕の色がある。見習うべきところは見習いながら、自分のパフォーマンスを出していきたい」
 田村優に学んだ落ち着きも強みのひとつと語る。

 先の日本代表でプレーした3人のSOのうち、ワイルドナイツの同僚でもある山沢拓也、中尾隼太(BL東京)は同い年で、李承信(神戸S)は6歳下。「(チームでもジャパンでも)SO全員でレベルアップしたい」と話しながらも、「チームを勝たせる選手が10番を着る(ことになる)。負けるつもりはない」と強い気持ちを示す。

「はやくこの日が来てほしかった」と心待ちにしていたサンゴリアス戦では、自分のコールに反応し、全員が動いてくれる感覚にも触れた。
「流れの中でトライを取った場面もありました。(チームは)まだまだ良くなる」と手応えも得た。
 勝たせるSOとして勝利への貢献を続けていけば、ジャパン復帰も現実のものとなるだろう。

 ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ、トニー・ブラウン アシスタントコーチが考える世界の強豪に勝つプランを体現するのが自分の役割とする。
「いつ(代表)選ばれても大丈夫なように準備をしておきたい」
「(リーグワンの)開幕からいく気満々」の言葉が力強かった。


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