ラグビーリパブリック

日本代表「柱メンバー」の古川聖人、出番なしのイングランド代表戦で反省するわけは。

2022.11.30

ヴェルブリッツの共同主将を務める古川聖人。リーグワン開幕直前メディアカンファレンスに出席 🄫JRLO


 へそを曲げなかった。へそを曲げるはずがなかった。

 25歳の古川聖人は今秋のラグビー日本代表へ参加するも、一度も試合に出られなかった。

 「JAPAN XV」名義で挑んだ対オーストラリアA・3連戦、ニュージーランド代表、イングランド代表、フランス代表とのテストマッチの際も、「柱メンバー」と呼ばれる控え組の一員として過ごした。

 それでも心境を問われれば、毅然とした態度を貫く。

 11月28日、都内某所。トヨタヴェルブリッツの共同主将として参加した、国内リーグワンの取材機会で話す。

「試合に出られない、だからもういいや…となるのは、一番、簡単な選択です。でも自分はラグビーをしていて、トヨタでも主将をしていて、(日本代表から)チームに帰った時にいいパフォーマンスをしなくてはいけない。それに(日本代表同行中も)いつけが人やコロナが出て自分にチャンスが巡ってくるかもわからなかった。そのために、いい準備をしなくてはいけなかった。モチベーションが下がったり、意欲が削がれたりということはなかったです」

 日本代表における「柱メンバー」は、次の試合の対戦相手の動きを分析し、試合出場組との実戦練習で再現するのが仕事だ。

 現体制のジャパンは、土日にある試合のメンバーをその週の頭に固める。「柱メンバー」の顔ぶれもそれと同時期に固まり、当日までの入れ替えは稀。ひとたび「柱メンバー」となった選手は、向こう1週間以内でのレギュラー奪還が難しくなる。

 存在感を示すのが難しそうに映るが、古川は言い切る。

「逆に、(対戦相手のカラーによって)いろんなプレーができた。臨機応変に対応する力もついた」

 自分と同じような控え組の総意を、こう代弁する。

「日本代表に集まっている選手たちです。(試合に出られなくても)ふてくされたり、いじけたりする人はいない。悔しい気持ちはあるんですが、それを押し殺してチームのために頑張る」

 何より「柱メンバー」の立場でも、出られなかったゲームへ当事者意識を持てた。

 10月29日には国立競技場でニュージーランド代表に31-38と接近も、11月12日、ロンドン・トゥイッケナムスタジアムでイングランド代表に13-52と沈められた。

 続く20日にはスタジアム・ド・トゥールーズで、テストマッチ13連勝を目指していたフランス代表に17-35で敗戦。今秋の日本代表はテストマッチ3戦全敗も、内容は試合によって大きく異なった。「柱メンバー」の古川はこうだ。

「(いい時は)練習での不安感がない。オールブラックスの週は、いい完成度、いい強度で練習ができていました」

 反省するのは、大敗したイングランド代表戦だ。日本代表は当日、イングランド代表の強烈な防御に攻撃陣形を乱された。

 藤井雄一郎ナショナルチームディレクターは、「レフリーが若かった。試合後、こっちから10クリップほどの『これはどうなんだ』という確認(プレー動画)を送った」。向こうのタックラーの立ち位置がイリーガルなのでは、との見方もあった。

 ただし古川は、当日のレフリングよりも当日までの自分たちの準備に矢印を向ける。

「逆に言うと、その週、自分たちがあそこまで(主力組に)プレッシャーをかけられていなかった。だから試合のメンバーが、(本番で)面食らった形になったんだと思います。メンバーだけが負けたわけではない。チームとしての準備がもっとやらなくてはいけないと思いました。自分たちも(試合に)出る可能性があると思ってやっているなか、テストマッチの強度に達していなかったのです。それではメンバーに選ばれたとしても…」

 日本代表は、2019年の日本大会で初めてワールドカップ8強入り。伝統的な強豪国とのアウェーゲームで力を発揮し続けるには、有形、無形の力を総動員せねばならない。

 ワールドカップ・フランス大会を来秋に控え、かような国際舞台での現実を皮膚感覚で知れたか。

 古川は「経験は大事。ただ、試合に出ることが一番の経験」と負けん気ものぞかせながら、簡潔な決意を明かした。

「いいゲームをしてよかったと思っている選手は、日本代表にはひとりもいない」

 持ち場はFW第3列だ。ヴェルブリッツで一緒に共同主将をする姫野和樹、東芝ブレイブルーパス東京所属で元主将のリーチ マイケルらと定位置を争う。身長179センチ、体重95キロと一線級にあっては小柄も、地上戦での粘りで魅する。

 何よりリーダーシップにも定評がある。東福岡高、立命館大でも主将を務めており、12月17日開幕のリーグワンにあっても古豪の船頭を担う。その時々で所属する組織の看板を背負い続けてきたとあり、一流の集まりである日本代表でも恥ずべき振る舞いはしない。

Exit mobile version