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「最上級」の努力家。東洋大ラグビー部の土橋郁矢、選手権出場へ「チームのために練習」

2022.11.26

東洋大のSO土橋郁矢。写真は今季リーグ戦開幕節の東海大戦から(撮影:松本かおり)


 努力家と言われる。

 東洋大ラグビー部4年の土橋郁矢副将は、チームが関東大学リーグ戦の2部にいた1年時から日々、埼玉県内の専用グラウンドへ居残り、ジムへ足を運ぶ。

 3年目に29季ぶりの1部昇格を叶え、最終学年となったいまも、習慣は変わらないようだ。
 
 同級生の齋藤良明慈縁主将が言う。

「自分も1部で通用するためのトレーニングをしているのですが、もう、そんなの比べられないくらい、土橋は本当に練習しています。チームのトレーニングが1日に2回あったら、それとはまた別な時間を作って9番(SH)の神田(悠作)と動いて、食事の時間にもラグビーの動画を観ている」

 かたや福永昇三監督は、「これは、努力という言葉(は適切)じゃない」と述べる。

 東洋大が哲学教育で知られるとあり、中国の思想家である孔子の『論語』を引き合いに出す。

「知好楽――知之者、不如好之者。好之者、不如楽之者」

 その物事を知るだけの人よりも好む人、さらに好むだけの人よりも楽しむ人が上回る、との意味だ。指揮官はここに「游」の字を加え、教え子に最大級の賛辞を贈る。

「何度か、下級生の時には『もう(練習を)やめといたら』と声を掛けました。知、好、楽、游…。もう、遊びの境地でやっている。最上級の思いでラグビーと向き合っています。将来も活躍すると感じています」

 2人の言葉をそばで聞いていた当の本人は、「あ、そんな…」。戸惑いながら言葉を選び、かえって「遊びの境地」に達しているのを示した。

「自分では、練習しなきゃと思ってやっているのではなく、練習が好きなのでやっている。あと、ラグビーはチームスポーツなので、自分のプレーで味方が楽になったり、チームが勝てたりした時は嬉しいので。チームのために練習して、うまくなるように頑張っています」
 
 岩手県の北上ラグビースクールで競技を始め、矢巾レッドファイヤーズ、黒沢尻工高で楕円球を追ってきた。

 身長180センチ、体重86キロのSOで、キック力と防御力に長ける。今季は空中戦に強いLOの齋藤、走りが鋭いSHの神田とともに、初戦で4連覇中の東海大を破った。

 シーズン3勝2敗で迎えた11月13日には、栃木の足利ガスグラウンドで法大に26-22と勝利。全国優勝3度の古豪を下した一戦にあっても、土橋は夢中で磨いた足技を繰り出した。

 5点を先取して迎えた前半16分頃。陣地の取り合いで見せ場を作る。

 鋭い回転のロングキックを、自陣の奥側から敵陣の深い位置へ放つのだ。

 蹴り返されればもう1本。さらにラリーが続いても、負けずに大砲を打ち込む。

 果たして向こうのミスキックを誘い、味方を敵陣に居座らせる。

 12-0と加点したのは、その約3分後のことだった。

「キックは自分の武器で、4年間、練習してきたので、自信を持って蹴っていました」

 エリアゲームで対峙した1人は、法大のFBで元高校日本代表の石岡玲英だった。

 19-8と東洋大がリードしていた後半の序盤には、石岡が得意のカウンターアタックで前進を図った。

 ここでも土橋は「負けたくなかった」と、向こうの走路を抑えて好タックルを放った。

ひとつのキック、ひとつの防御が流れを傾ける接戦にあって、土橋は、関東協会認定のプレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝いた。

 簡潔な言い回しに、手柄を誇らぬ性格をにじませた。

「強い気持ちを持って戦おう。それが体現できて、勝てたと思います」

 リーグ戦は混戦のまま最終節を迎えた。

 東洋大は27日、東京・江戸川区陸上競技場で同じ昇格組の立正大と激突する。

 全国大学選手権への進出枠は、3枠中2枠が東海大、流経大で埋まり、残った椅子を日大、直接対決する東洋大、立正大の3校で争う。

「自分たちのことだけに集中して、いい準備をしたいと思います」

 こう語る土橋は法大戦の後半12分に故障も、いまでは戦列に戻った様子。ひりつく最終決戦でも淡々と働き、次のステージへ進みたい。