福井翔大は、絶対に勝てたはずだと繰り返した。根拠は。
「…僕の負け惜しみというか、ただただ悔しくて」
聞き手を笑わせた。
2018年に東福岡高を卒業後、大学を経ずにプロ選手となった23歳だ。
昨秋には初めて日本代表に入った若きFW第3列が「本当に勝てたんじゃないかなって。いまもあきらめきれない現状ですね」と強調した試合は、11月4日、本拠地の熊谷ラグビー場でおこなわれた。オーストラリアのレッズを招いての国際親善試合だ。
国際リーグのスーパーラグビーで戦うレッズは、この夜、レギュラークラスと経験の浅い若手をミックスさせていた。
かたや国内タイトル2連覇中のワイルドナイツも、看板選手の多くを故障や各国の代表活動で欠いていた。
序盤、劣勢を強いられたのはワイルドナイツだった。
相手走者によく前に出られ、攻めても中盤で反則を重ねた。敵陣ゴール前でのラインアウトモールを起点とした5本を含む、計7本のトライを献上。6-45と大差をつけられた。
しかし今度の黒星に、8番でフル出場した福井は「負け惜しみなんですけど、絶対に勝てました」と繰り返す。
「まずはペナルティの多さ(が敗因)。僕らが去年、一昨年と勝ってきた原因がそこ(規律)なのに、それがぶれちゃったのが一番、だめなところで。反則の理由、ですか。…僕は、完全にやってやろうという気持ちが先行しちゃって。自分ファーストの考えになっちゃっていたかなと」
口惜しさを増幅させたのは、個人的な感触がそう悪くなかったからでもあろう。
「僕が高校ジャパンの頃(高校日本代表として海外の同年代選手と激突)にあったフィジカルファイトでの差は感じなかったですし…」
確かに1対1、もしくは少人数同士による接点では、相手の激しい圧を受けてもさほど後退していなかったような。
後半8分頃には自陣22メートルエリア右でジャッカル。大型選手が引きはがしに来るのに耐え、攻撃権を奪った。直後の流れから自陣で攻め立てられても、2本のタックルで攻防の境界線を下げなかった。やがてレッズが反則を犯した。
ワイルドナイツは中盤以降、蹴り合いを経ての連続攻撃を機能させて30-55とスコアを整えていた。やられたままで終わらなかったなか、若き東洋人の福井は骨格の大きな海外勢を相手にも伍していた。
手応えをつかめた背景について、本人はこう語る。
「直近で言うと、けがをしてから、結構、長い間、時間をもらえた。自分の身体を見つめ直すいい機会になったのかなと。佐藤さんのトレーニングを、復帰に向けてやっていました」
昨季はリーグワンの途中に故障離脱。「最初はかなり落ち込んじゃって。大けがをした選手をググったり(ネットで検索)して、自分はましだなと思ったりしていた」と、失意にさいなまれた。
浮上のきっかけは、「佐藤さん」こと佐藤義人トレーナーへ師事したことだ。ワールドカップ3大会連続出場の堀江翔太も信頼する佐藤氏のもと、コンタクト時に強さを発揮する身体の使い方を指導された。
かくして、いまに至る。
「まだまだですけど」
貪欲に見据えるのは、12月中旬からのリーグワンでの躍動、シーズン後の日本代表復帰だ。異色のキャリアで話題を集めてきた青年は、これから始まる戦いへ大らかに決意する。
「皆、僕のことを忘れかけていると思うので、いったん思い出してもらえるようなプレーがしたいです」