ラグビーリパブリック

歴史的接戦を呼び込んだ。チーム一丸で磨いた日本代表のモールディフェンス

2022.11.04

日本代表は重ねた準備の成果を出し、オールブラックスのモールを止めた。(撮影/イワモトアキト)

23人のメンバーには入ったものの、出場はならなかった日野剛志。サイドラインの外からチームをサポートした。(撮影/松本かおり)



 日本代表がオールブラックス(ニュージーランド代表)の強力モールを止めていた。前半22分のピンチで押し返し、後半10分にもFW陣が互角以上の力を見せ、ピタリと止めた。

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 オーストラリアAとの3連戦ではモールのディフェンスが課題になった。第2戦の逆転負けは、最終盤のモールトライが呼び水。第3戦でも押し切られる場面があった。

 オールブラックスはモールが大きな武器だ。10月29日、東京・国立競技場での対決では、必ずモールで攻勢を掛けてくる——。

 だが、ジャパンは準備していた。リザーブに入った日野剛志が、7点差での惜敗(31−38)となったニュージーランド戦後に明かした。

「(ニュージーランド戦のために)再集合したその日にモールの練習をしました。一週間の中で通常より1回多くモール練習を増やしたことで、今日は成果が出たと思います」

 後半36分、日本はニュージーランド陣内から15メートル以上押されているが、ここは多少押されてもよいと割り切っていた。先発のPR稲垣啓太が試合後に話した。

「陣地によってモールディフェンスのやり方は変わります。中盤からモールで50メートル押してくるチームはないわけなので、中盤で一番大事なことは、コンテストをしてモールを作る段階に入らせないことです」

「もしもその段階に入らせてしまったら、次に何をするか。絶対に反則をしないことです。5メートル、10メートル押されるよりも、反則で下がることの方が痛い。こうした(モールの)準備は相当やりました。週3、4日はモールディフェンスに割きましたね」

 結果的に、日本がラインアウトモールによって奪われたトライはゼロだった。

 ニュージーランドは後半10分にモールを封じられた直後、日本陣10メートル付近でペナルティを得ているが、ここでは選択したのはスクラム。ラインアウトを避けた。

 この後オールブラックスはFL姫野和樹のジャッカルにより後退する。ラインアウトを避けた判断が裏目に出たのだ。

 抜群だったモールディフェンスは、出場メンバーだけの功績ではない。高強度のモール練習は8人ではできない。

 ノンメンバー組の献身があるからこそ、だった。

「ノンメンバーは仮想オールブラックスとして動いてくれて、モールでは試合さながらの強度で相手になってくれました。こうした高いプレッシャーは相手がいないとできません」(HO日野)

 2019年のワールドカップでもノンメンバー組が対戦相手をコピー。初の8強進出を支えた。今回もノンメンバーの貢献が大きかった。だからこそジェイミー・ジョセフHCは試合後の記者会見で、みずから感謝を口にした。

「他のメンバー(ノンメンバー)が手助けをしてくれました。そういう選手たちに感謝をしなければならないと思います。彼らはチームをサポートしてくれました」

 日野はオールブラックス戦でメンバー23人に入っていたが、唯一出場がなかった。それでも最高の準備を続け、チャンスが巡ってくる瞬間を待つ。
 同志社大学時代はプレー映像をもってみずから売り込みをかけ、ヤマハ発動機(元静岡ブルーレヴズ)入団を掴んだ逸話を持つ。チャンスを呼び込み、確実に手にしてきた日野は2022年、日本ラグビーフットボール選手会の第4代会長にも就任した。

 日本代表、欧州遠征の最終戦の舞台はフランスのトゥールーズ。日野が2019年に在籍したフランス1部スタッド・トゥールーザンのある大都市だ。怪我なく欧州遠征に参加すれば、日本代表としての凱旋を果たす。

「遠征最後のフランス戦がトゥールーズであるので、そこで出場できるように引き続き頑張っていきたいです」

 チームマンとして、一人のアスリートとして、準備を続ける。今の日本代表は日野のようなチームマンの集まりだ。

 日野は実感を込めて、淡々と話した。

「全員にチャンスが与えられるチームではないことは全員が理解しています。メンバー、ノンメンバーに関わらず、チームに貢献できる人間が求められていることも、みんな分かっています。メンバーに選ばれても、選ばれなくても、いつでも出られるように準備することは変わりません。そうしたチームになってきたかなと思います」