テーマは「ストリートファイト」。強い相手との勝負だ。受け身であってはいけない。
10月28日、国立競技場。世界最強と謳われる「オールブラックス」ことニュージーランド代表との一戦を翌日に控え、日本代表の下川甲嗣は当日のイメージを語った。
「ストリートファイトは、いきなり始まる戦いです。相手をリスペクトしつつ、先手を打つ。局面、局面で仕掛ける。プレッシャーをかけ、相手のしたいプレーをさせない。…僕もそれを体現したいです。練習中も、『見たら負け』『待ったら負け』という言葉をよく使います」
2021年度に早大から国内リーグワン強豪の東京サントリーサンゴリアス入り。今年5月までのリーグワンでは、実質的にルーキーながら開幕からチームの主力メンバーとなった。
シーズン終盤はけがで戦列を離れるも、今秋の日本代表候補に名を連ねられた。9月上旬からの候補キャンプでタフさを示し、ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチから信頼を得た。
果たして10月に「JAPAN XV」名義でおこなった対オーストラリアA・3連戦へは、全試合に先発。そして29日、正規のテストマッチ(代表戦)でリザーブに名を連ねる。丁寧に言葉を選ぶ。
「テストマッチは初めての経験。実際にそこに立ってみないと雰囲気はわからないですし、これまでの3試合とは違うものになるとも思います。ただ、これまでの3戦に出場できたことで、ワールドクラスを身体で感じられた。そこに自信を持てています」
身長188センチ、体重105キロの23歳。FW第3列のFLを主戦場とし、タックルと運動量、手先の器用さやコンタクト時のボディバランスを持ち味とする。
何より謙虚で賢い。サンゴリアスで前採用担当の宮本啓希・現同志社大ラグビー部監督は、自身が獲得した下川の入社後の姿に触れてこう感じたという。
「練習で、初めてやるプレーについてミスをしたとする。すると、その後、そのシチュエーションについての自主練をしている。次の日の練習でも、その(一度ミスした)プレーをできるようにしようとする意志を見せる。それはエッジ(グラウンドの端側)で(パスなどの)スキルを使う動きだったのですが、結局、試合でそのプレーをチームのトライにつなげたことがありました。下川には、その時に自分が何をしないといけないのかを理解する力があるんです」
課題を明確にし、素直に克服に努めるのがこの人の信条なのか。今度の代表ツアーでは、似たポジションに入る熟練者のリーチ マイケルに立ち位置、スキルについてさまざまに質問した。よき手本に学んだ。
最近では「マインドが変わった」と胸を張れるようになった。国内きっての俊英に揉まれてつかんだ成長実感を、大一番への意気込みに変える。
「(以前は)オールブラックスは雲の上の存在だと思っていました。ただ日本代表には、オールブラックスにも当たり前に勝ちに行くという雰囲気があります。(いまは)僕も、明日は絶対に勝てると思っています」
前売り券はすでに完売。約6万5000人を集めそうなスタジアムで、それも世界に名だたるチームを相手に代表デビューを飾れるかもしれない。
「日本代表として日本を背負って試合に出るのは、ラグビーを始めた頃からの夢でした。それが明日、叶うかもしれない。やる気と、わくわくした気持ちに満ち溢れています」
いましか感じられない心の動きを楽しむ。