ワールドカップ3度優勝の通称「オールブラックス」を相手にも、「勝ちを求めるしかない」。ラグビー日本代表の稲垣啓太は、10月29日、東京・国立競技場でのニュージーランド代表戦に先発予定だ。
予定通りに出場すれば、今回の日本代表メンバーで3番目に多い43キャップ目を得る。かねて、勝利への道筋をこう捉えていた。
「日本代表には得点する能力はあると思いますが、要所、要所でシャットアウトしないと。取って、取られて、ではメリハリがないゲームになってしまう。(全員で)一緒の絵を見る。その詳細まで詰められているか、というところ(が大事)」
スクラム最前列の左PRにあって際立つ運動量を誇る身長186センチ、体重116キロの32歳は、国内有数の理論派でもある。
ワールドカップへの出場回数は、8強入りした日本大会を含めて2度。いまは来秋のフランス大会に向け、下地作りに励むチームで奮闘する。
内輪で用いられる言葉は「ベースキャンプ」。そのため目下、組まれているゲームでは、結果を得るよりもプレースタイルの涵養(かんよう)こそが求められる。
それでも稲垣は、勝敗にこだわらなくていいとは思っていない。結果を得ながら、質を厳しく問う。
10月14日までは、対オーストラリアA・3連戦に「JAPAN XV」名義で挑戦した。
一時コンディション不良を抱えていた稲垣は、大阪・ヨドコウ桜スタジアムでの最終戦のみ出場。52-48と競り勝つも、戦後の取材エリアでは「褒められた内容ではない」と話していた。
「いわゆるベースキャンプ。いまがそういう位置づけなのは選手全員、理解しています。ただ、選手はそこで結果を求めていかないと。いくらスタッフがいいプランを提示してくれても、やるのは選手。いまは、それを全部、遂行できているとは思っていない。遂行できればいいラグビーができている。できなきゃ、きょう(14日)みたいに失点が増える。(戦術遂行に必要なプレーの)ディテール、クオリティが失われたことが多々ありましたよね」
日本代表は歴史的に、上位国との体格差を組織力と運動量で補うチームだ。
2019年のワールドカップではアイルランド代表、スコットランド代表を相手に、アンストラクチャー(セットプレーを介さない攻防)から息の合った連係攻撃を繰り出しプール戦で全勝した。
トニー・ブラウン アシスタントコーチの緻密な計画のもと、球を持たぬ人を含めたすべての動きをシンクロさせる。果たしてスペースを破る。
来年のワールドカップのゲームもそれと似た展開に持ち込むべく、いまはブラッシュアップされた基本戦術を学び直している最中。2019年の日本大会以降に加わった俊英とともに、トライアル・アンド・エラーを重ねる。稲垣は言う。
「テストマッチ(代表戦)では、どこの国も戦術がシンプルなんですよ。(代表チームは)集まってすぐに試合をするので、アタックもFWがまっすぐ行き、(外側に)スペースを作る、というように。ただそこに対して、僕らもシンプルでいいのか。そうすると、どうしてもフィジカルで負けますよね――まぁ、僕はそこでも負けたくないですが――。では、そこ(ぶつかり合いで苦しむなか)でどうやってスペースを作るか? 自分たちの弱みをわかったうえでどこにチャンスを作るか? そこで自分はどこで何のために何をして貢献するのか? そういうことを(全員が)深いところまで理解するには、時間がかかる。結果がなかなか出てこないなか、自分たちはそれ(計画を遂行すれば結果が出ること)を信じていくしかない」
オールブラックス戦は、旅の途中に出くわした大きな山と言える。
接点で首尾よく相手を引きはがし、複層的な陣形を用いてスペースへ球を運ぶシーンをいくつ作れるか。
鋭い出足で「要所、要所」の防御局面を「シャットアウト」することはできるか。
目指すプレーの遂行力を高め、その延長で白星をつかみたい。