ラグビーリパブリック

新戦力が強烈なイーグルス。ハードワークでスピアーズの控え組苦しめた。

2022.10.26

プレシーズンマッチ2連勝の横浜キヤノンイーグルス(撮影:向 風見也)


 公開オーディションの季節だ。

 ジャパンラグビーリーグワンの加盟クラブが12月中旬の開幕に向け、各地で練習試合を実施。最上位ディビジョン1で昨季3位と奮闘したクボタスピアーズ船橋・東京ベイは、10月22日、東京・町田市内の相手本拠地で同6位の横浜キヤノンイーグルスに挑んだ。

 リーグ元年にあたる昨季の対戦成績は1勝1敗だ。実力伯仲の両軍にとって、45-24でイーグルスが勝ったという最終結果よりも、その中身のほうが大切か。

 どちらもそれぞれのチーム事情に沿って、多くの若手、新加入組に出場機会を与えた。両軍の指揮官とも、12月中旬の開幕に向けて収穫と課題を見つけたかったと明かす。

 今季初の実戦で黒星を喫したスピアーズのフラン・ルディケ ヘッドコーチは、試合後のグラウンド上で微笑む。

「若手を含め、昨季あまり試合に出られていない人に機会を与えました。練習でしてきたことがどれだけできたか、コンビネーション、ゲームフィットネスの確認のための試合となりました」

 前週の東芝ブレイブルーパス東京戦に続き2連勝というイーグルスの沢木敬介監督は、監督室と思しき空間でデスクを前に話す。

「(これまでの練習で)取り組んできたことがどれだけ成果として出るかをチェックしてきた。それと(選手個々の)勝つための競争への心構えもテストしている段階です。まず、きつい局面でファイトできるのか、勝利のために自分のやることを遂行するために努力するのかが(評価ポイントの)根本にある。それと、心構えがあってもスキルが追い付かない選手がどこまでレベルアップできているかも見ています」

 スピアーズは序盤、防御で前に出た。14点差を追う前半11分。自軍キックオフの直後に敵陣22メートル線付近で守備ラインを作る。球が出るや迷わず競りあがってミスボールを確保し、HOの大熊克哉のトライなどで14-7と点差を詰めた。

 ハーフタイムを迎えるまでは身長168センチと小柄なFL、岡山仙治がしぶとく接点の球へ絡み、相手走者の足元へ突き刺さる。トニー・ハント、テアウパ シオネの両CTBも、強烈なタックルを打ち込んでいた。

 ルディケは「個人の名前を挙げるより、チームのプロセスに則って(選手や組織を)評価したい」としながら、複数の選手をほめた。

 まず前半にSOへ入った侭田洋翔のゲームコントロール、後半からその位置でプレーした押川敦治のランプレーに言及した。2人はシーズンに入ればオーストラリア代表のバーナード・フォーリー、2019年度の早大で大学日本一に輝いた岸岡智樹と定位置を争う。

 日本代表となった根塚洸雅ら若手がブレイクし続けるWTBにあっては、29歳の近藤英人が走りで爪痕を残した。

 2016年就任の人格者、ルディケは言う。

「前半はいいゲーム。後半はコリジョン(衝突)、ブレイクダウンをコントロールされ、クイックボールを出され、前に出られたが、いい経験でした。学ぶべきを学び、どう改善していくか(が大事)。今後は(ツアーに出ている)日本代表、オーストラリア代表、南アフリカ代表の選手、さらにはけが人を戻し、クボタウェイを作っていく。開幕まで、時間もまだまだあります」

 もっとも、要所で局面を制したのはイーグルスだった。

 沢木体制3年目。勤勉さと大胆なスペースの攻略を志向する。この日は総じて、粘りで際立った。ひとたびラインブレイクされても、全員で素早く駆け戻っていた。

 試合開始早々には、敵陣22メートル線エリアで岡山のインターセプトと突破を許しながらLOのコリー・ヒル ゲーム主将、CTBのヴィリアメ・タカヤワが自陣中盤までカバー。向こうの反則を引き出した。

 特にインパクトを示したのは、マックス・ダグラス。オーストラリア出身の新加入選手で、身長201センチ、体重112キロと大柄も機動力をアピールする。

イーグルスに今季新加入のマックス・ダグラス(撮影:向 風見也)

 21-19で迎えた後半開始からLOを任されるや、スピアーズの有望株で鳴らすNO8のアシペリ・モアラのランニングをストップする。

 続く28-19とリードして迎えた同10分頃にも、強烈なタックルを連発した。

 ハーフ線付近から自陣22メートル線付近まで駆け戻ってのタックルが、ターンオーバーに直結。まもなくハーフ線付近で生じた防御局面でも、相手をなぎ倒してペナルティキックをもたらした。

 イーグルスはその後、しばらく敵陣に滞留。FBのエスピー・マレーのトライなどで35-19と流れを傾けた。

 次第に攻めでもリズムを生む。

 ボール保持者がタックラーにぶつかると、援護役がそのタックラーに身体を当てて立ち上がるのを遅らせる。果たしてイーグルスの攻めに勢いをつけたり、スピアーズの反則を誘ったりできた。

 終盤からSOで登場の田村優は、タッチライン際のスペースに絶妙なキック、パスを通し続けた。

 沢木監督がほぼ着手していないと話すモールの攻防でも複数のトライを生み、相手の塊をその場に押しとどめるシーンも作った。

 ダグラス、WTBのイノケ・ブルアといったこの午後活躍した新戦力に関しては、「これからもっとよくなる」と沢木。活躍は織り込み済みで、さらに成長を期待しているようだった。

 オープニングゲームまでの道のりを、こう展望した。

「これまでのプレシーズンマッチでは、ほぼ全員にプレーするチャンスを与えた。ただ次からは、求めているレベルじゃないパフォーマンスをした選手のプレーチャンスは減っていく。いいコンペティション(競争)ができる環境を作れるのが、強いチームだと思う」

 晩秋、大分でキャンプを張る。