総キャップ数は1300オーバー!
すべてのポジションにトップクラスの俊英がひしめく
オールブラックスがやってくる。世界中のラグビーファンが胸を高鳴らせるフレーズだ。
アイルランドに負け越し、アルゼンチンにホームで初黒星を喫して、世界ランキングで史上最低の5位に転落する屈辱にまみれようとも、オールブラックスが特別であることに変わりはない。勇壮なハカや恐ろしく精度の高いスキル、パワフルで統率のとれた攻守を目の当たりにすることは、贔屓チームを問わずすべての楕円球愛好家にとっての至福といえる。
10月29日。その唯一無二のラグビーチームが、国立競技場で日本代表とテストマッチを戦う(リポビタンチャレンジカップ・14時50分キックオフ)。もちろん期待するのは日本代表の勝利。ただし一方で、勝ち負けに関係なく日本でオールブラックスの試合が見られることを楽しみにしているファンが多いのも事実だろう。
この後に控えるヨーロッパ遠征でのウエールズ、スコットランド、イングランドとの連戦を考慮し、日本ツアーには経験の浅い若手主体の布陣で臨んでくるのではないか――。そんな一部の予想とは裏腹に、今回の来日スコッドは現時点のベストというべきそうそうたる顔ぶれになった。直前まで行われたザ・ラグビーチャンピオンシップを戦ったメンバーほぼそのままという構成で、35人の総キャップ数は「1362」にのぼる。
すべてのポジションに世界トップクラスのスター選手が並ぶ豪華な布陣の中でも、特に俊英がひしめいているのはFW第3列だ。毎試合MVP級の活躍を見せる闘争心の塊、アーディー・サヴェアを筆頭に、キャプテンのサム・ケイン、いずれも父がかつて日本でプレーしニュージーランドでも指折りの才能と評されるアキラ・イオアネやホスキンス・ソトゥトゥ、セントケンティガン高時代にサニックスワールドユースで来日している猛タックラーのダルトン・パパリィイと、誰がどこで起用されても強烈なユニットとなる。
注目されるのは、チームをコントロールする司令塔争い。2021シーズンにサントリーでプレーし日本のファンにも馴染みの深いボーデン・バレット、常勝クルセイダーズを統率するスキルフルなリッチー・モウンガ、センス抜群の万能プレーメーカー、スティーヴン・ペロフェタのうち、誰が10番を背負うか興味深い。バレット、ペロフェタはFBでプレーすることも多いだけに、3人の起用法は話題になるだろう。
日本に馴染みのある選手も多数来日。
世界的スターの躍動は必見!
11番から14番までのTB陣も同じく激戦だ。アウトサイドCTBのリーコ・イオアネは今夏の活躍で13番のファーストチョイスの地位を確たるものとしたが、それ以外はまだ流動的。潜在力は兄・ボーデン以上ともいわれるジョーディー・バレットが12番で高い適性を示したことで、多彩な能力を兼ね備えるデイヴィッド・ハビリ、元13人制ラグビーのスターでXファクターとして期待されるロジャー・トゥイヴァサ=シェック、さらにはケガから復帰したアントン・レイナートブラウンやブレイドン・エノーとのレギュラー争いは一気に激化した。
タイプの異なるフィニッシャーがそろうWTBでは、21テストで21トライの驚異的アベレージを誇るウィル・ジョーダンと、189cm、107kgの巨漢で「ジョナ・ロムー2世」とも称されるケイリブ・クラークが一歩リードしている印象だが、2019年のRWC出場メンバーでもあるセヴ・リース、今季クルセイダーズで鮮烈なインパクトを残したパワーランナーのレスター・ファインガアヌクも、南半球有数のフィニッシャーだ。ボーデン、ジョーディー、ペロフェタの誰がFBに入るかを含めて、バックスリーの組み合わせは今回のテストマッチの見どころのひとつといえる。
試合登録メンバーが発表されるのは通常キックオフの48時間前で、現時点で誰が23人のリストに入るかはわからないが、出場すれば多くの視線を集めそうなのが、SHアーロン・スミスだ。流れるようなパスワークで味方のトライを導くことから「トライアシストキング」の異名をとり、169cmの小柄な体格ながら欠かせぬ存在として「ナゲット(金塊)」の愛称で親しまれる。スーパーラグビーのハイランダーズで田中史朗や姫野和樹とチームメイトだったことから日本のファンにも人気があり、SHのお手本ともいうべきプレーを見たい人は多いだろう。
LO陣にはブロディー・レタリック(元神戸製鋼)、サム・ホワイトロック(元パナソニック)と日本でのプレー経験のある“ビッグ2”が名を連ね、フロントローではPRイーサン・デグルート、PRタイレル・ロマックス、HOサミソニ・タウケイアホと、ここにきてメキメキと頭角を表してきた若手がチームに勢いを与えている。どのようなメンバー構成になっても、10月29日の国立競技場で世界最高峰のラグビーが披露されるのは間違いない。必見だ。