ラグビーリパブリック

車いすラグビー世界選手権 日本は準決勝でアメリカに敗れ大会連覇を逃す

2022.10.18

アメリカのキーディフェンスを突破する池透暢(撮影/張 理恵)


「悔しいという言葉しか出てこないです。今日に関しては完敗です」
 キャプテンの池透暢は硬い表情で口を開いた。

「2022 WWR 車いすラグビー世界選手権」は大会6日目の10月15日、準決勝と順位決定戦がおこなわれ、日本はアメリカとの準決勝に52-57で破れ大会連覇への道が閉ざされた。

 日本がティップオフを制し、乗松聖矢の先制点から試合はスタートした。
 順調な立ち上がりを見せたかと思いきや、アメリカの強いディフェンスが、「らしくない」にアンラッキーまで重なった日本のパスミスを誘う。
 開始から3分で2点のリードを許すと、リズムをつかむことのできない日本は、序盤から苦しい展開を強いられる。

「『勝つぞ!』という気持ちは強かったけれども、そこに気持ちが行き過ぎて頭から突っ込んだゲームでした。アメリカの当たりには重さがあって、ボーラーのタイミング、全員のタイミングがちょっとずつ掛け違ってしまったのが空回りの原因だと思います」
 スターティングラインナップで出場した池はそう振り返る。

力強くトライを奪う池崎大輔(撮影/張 理恵)

 東京パラリンピックで銀メダルを獲得したアメリカ。日本との対戦は2019年5月の国際大会以来、3年5か月ぶりとなる。東京2020大会でキャプテンを務めたジョー・デラグレーブがヘッドコーチ(HC)に就任し、今大会ではアメリカ代表史上初めて女性選手2名がメンバー入りするなど、「東京より上にいくため」の多くの変化にチャレンジしている。
 予選ラウンドではフランスに敗れ、精彩を欠くプレーも見受けられたが、この日のアメリカは息を吹き返し、研ぎ澄まされた集中力でコート内の4人が連動し日本の行く手を阻む。

 日本はリズムを取り戻せないまま10-13で第1ピリオドを終えると、続く第2ピリオドでは、攻撃の起点であるインバウンドでターンオーバーされるなど、アメリカ優勢の状況が続く。
 倉橋香衣が道を作り、羽賀理之が走る。池崎大輔と池が相手のディフェンスをこじあけトライを奪う。
 ベンチから仲間を押す声がコートに送られる。
 しかし細かいミスが点差を生み、23-29で前半を終えた。

「誰がまだ勝てると信じているか」。オアーHCのげきが飛ぶ(撮影/張 理恵)

「誰がまだ勝てると信じているか」
 チームを見渡し、ケビン・オアーHCのげきが飛ぶ。

 勝てると信じなければプレーをする意味がない、勝つという気持ちがあるからこそ試合に勝てる。
 オアーHCは選手一人ひとりとアイコンタクトを交わし、チームの士気を高める。
 噛み合わなかったメンタルとフィジカルのピース、はずれかけた心のピースをがっちり合わせていく。

 重い空気を断ち切ろうと、第3ピリオドにオアーHCがコートに送り出したのは20歳の橋本勝也だった。
 アメリカのエース、チャック・アオキも「若き才能ある選手」としてその名を挙げる橋本が躍動する。パラリンピック銀メダルメンバーのアオキやジョシュ・ウィーラーをも圧倒する走りでチームを勢いづかせる。

アメリカ代表チャック・アオキが「若き才能ある選手」と認める橋本勝也が躍動した(撮影/張 理恵)

 壮絶な走り合いにタックル。相次ぐタイヤのパンクが、その激しさを物語る。
 アメリカ代表“イーグルス”の愛称のごとくクロスに走るアメリカを日本はなかなか止めることができない。
「スペースを意識したオフェンスなど、新たな戦術に取り組んできた」
 チャック・アオキが準決勝を前に話していた言葉が脳裏をよぎる。
「斜めに走られて、(相手を止めるために)どこに付けばよいのか、つきづらさを体感した」
 池から“完敗”という言葉を出させたプレーのひとつだ。

 さらに、アメリカが得意とするキーディフェンスが壁となって立ちはだかる。
 トライゾーン手前の“キーエリア”での、凄まじい攻防。トライをさせまいと車いすをがっちり押し寄せるアメリカ、5センチまで迫ったトライラインを手繰り寄せようと、歯を食いしばり全力で車いすを押す日本。しかし、序盤で引き離された点差はなかなか埋まらない。

最後まであきらめない姿勢を示した島川慎一。左はチャック・アオキ(撮影/張 理恵)

 それでも、どんなに心が折れかかっても、最後の最後まであきらめることはなかった。
 島川慎一が目を見開きながら突進し、試合時間のこり0.1秒で意地のトライ。その直後に試合終了を知らせるブザーが鳴り響く。
 電光掲示板に表示されたのは、52-57。死力を尽くした選手たちは大きく肩を落とした。
 そして会場からは、最後まで戦い抜いた両チームに温かい拍手が送られた。

 試合後、橋本勝也は感情を抑えきれずに、大粒の涙をためて言葉をしぼりだした。
「多彩なラインナップという強みがある今の日本代表の中で、自分がどれだけそこに加われるかがカギになると思って試合に臨んでいた。今は“悔しい”という気持ちで感情の整理がつかないが、明日はこれまで合宿でやってきたことを発揮できるようにチーム一丸となってハードワークしていきたい」と前を向いた。

 大会最終日の10月16日、日本は銅メダルをかけてデンマークとの3位決定戦に臨む。そして、アメリカとオーストラリアが世界一をかけ決勝の舞台で戦う。
 世界選手権での最後の試合。
 今日の経験を「価値ある負け」にするため、日本は次へとつながる勝利をつかむ。

オールラウンダーとして活躍する中町俊耶のトライ。左はジョシュ・ウィーラー(撮影/張 理恵)
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