ラグビーリパブリック

帝京大・高本幹也が作った「つながり」。司令塔のジャッジとスキルに迫る。

2022.10.15

帝京大の司令塔を務める高本幹也。写真は9月11日の立教大戦(撮影:松本かおり)


 高本幹也が真骨頂を示した。

 身長172センチ、体重83キロ。いまの学生シーン指折りの司令塔と謳われる帝京大ラグビー部副将は、10月2日、東京は江戸川区陸上競技場で難所を切り抜けた。

 関東大学対抗戦A・第3週で、筑波大を45-20で制した。一時8点ビハインドを背負いながら、終盤に逆転した。取材エリアでこう繰り返した。

「普段の練習から、つながりを意識している」

 序盤は苦しんだ。筑波大の練られたエリア戦略と防御の出足を前に、ミスを重ねた。得点機に攻めあぐねたり、陣地挽回のためのキックを想定と違うであろう場所へ飛ばしたり。

 高本は前半から好パスで得点を演出も、12-17とリードされてハーフタイムを迎える。後半6分にも自陣で反則を奪われ、12-20とされる。

 うまくいかなかった時間帯の心境は。高本は説く。

「相手にプレッシャーをかけられていたわけではなくて…。たぶん、自分たちが思うようにプレーできていなくて、そのことで『相手にプレッシャーをかけられている』と思ってしまっていたと感じます。実際に(相手の)プレッシャーはあったんですけど、そのプレッシャーも予測していたものだった」

 相手の実力は確かだと認める一方、自分たちは足元を見つめ直せば最後には笑えると信じた。

 チームがよりコンタクトに力を込めるよう意思統一を図るなか、高本は、正しいジャッジとスキルの合わせ技で流れを取り戻す。

 19-20と1点差を追う後半12分。帝京大は、相手のキックオフを自陣の深い位置で確保する。定石どおりに蹴り返すのではなく、攻め始める。防御をひきつけながらの深い角度のパスを3本、重ね、右側の空洞をえぐりにかかる。

 4本目のパスを放ったのは高本だ。投げる瞬間まで前方へ走り、2人のタックラーの視線を集める。

 ボールはさらに2つのパスを介し、右端へ渡る。WTBの長谷川毅がハーフ線を通過する。ここから右方向で2度、ボールをキープする。

 次は左、中央と攻め込み、大きく前進する。その際は、簡潔な攻撃陣形を機能させていた。

 3名のFWの後ろへ、高本が立つ形だ。

 横並びのFW陣のうち、真ん中に入ったFLの奥井章仁がファーストレシーバーとなる。奥井からパスをもらう高本が、適宜、ベストなプレー選ぶ。

 左側のスペースを破った際は、中央から左へロングパスを繰り出す。長谷川を走らせる。

 中央付近で防御を崩した時は、自身の右隣りへ短いパスを放つ。HOの江良颯を大きく走らせる。

 いずれの場面でも、身体の前方の一部を目の前の相手に向けながら投げている。守る側としては高本がそのまま走り込む可能性を捨てきれず、かえって高本のパスが活きる。

 江良の走りで敵陣22メートルエリアに入ると、接点から出た球を高本が右大外へ放つ。WTBの小村真也のフィニッシュで、24-20と勝ち越した。

「相手は(後ろに)下がったんで、その分、前のスペースが空いていた。そこへ運べてよかったです」

 その言葉通り、帝京大が自陣から攻め始めたのには理由があった。筑波大が理想のキック合戦に持ち込むべく、後衛に人を集めていたためだ。

 前衛が薄いのに高本が反応し、技能を発揮した。

 その後の鮮やかなアタックについて、高本は「つながり」をキーワードにして話した。

「僕が発信して、皆がつながって、(ボールを)運べたかなと思います。僕が発信したことに皆がつながってくれるところは、習慣化されてきているとは思います。なかなか試合で練習通りにできることはないですけど、あのシーン(連続攻撃)は練習通りにいけたかなと思います」

 直後の相手ボールキックオフでも、帝京大は自陣の深い位置からパスで攻める。この時、筑波大のNO8で後ろ側のフィールドを守っていた谷山隼大は、自らの判断を悔やむ。

「自分が踏ん切りをつけてさっと上がれば(前衛を埋めれば)よかったんですけど、その判断ができなかった」

 自陣中盤まで攻め上がった帝京大は、一転、自分たちからキックの応酬を始める。

 向こうの蹴り返しをキャッチした高本は、トップスピードを保ってふわりと蹴り返す。せり上がってきた防御の後ろへピンポイントで球を落とし、高本自らが敵陣10メートル線エリアで捕球する。

 さらに走る。

 タックラーを引きずり、振り切り、敵陣22メートル線を通過する。

 左端でサポートについた奥井へバックフリップパスを通し、ゴールラインに迫る。

 最後はFLの青木恵斗のトライと高本のコンバージョンで、スコアは31-20となった。

 後半16分まで続いたこの流れにも、高本の「発信して、皆がつながって」の意思がにじむ。

 次の相手ボールキックオフからの攻防では、守る筑波大が前衛に枚数を割いていた。それまでの猛攻を受け、人員の配置を変えたのだ。

 すると高本はキックを選択。相手の落球により敵陣深い位置からプレーを再開でき、21分までに38-20とした。

 終わってみれば25点差をつけ、開幕3連勝を果たした。

 高本はどう感じたか。

「前半からいい入りができるように頑張っていきたいと思います。ひとりひとりのマインドが大事です。気が抜けてしまってはダメで、そこをコントロールしていかないと、優勝はできない」

 前年度の上位陣とぶつかる終盤戦へ、反省も忘れなかった。見据えるのは、冬の大学選手権での2連覇達成だ。

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