デンマークで開催されている「2022 WWR 車いすラグビー世界選手権」は大会3日目の10月12日、予選ラウンド10試合がおこなわれ、開幕2連勝で勢いにのるプールBの日本(世界ランキング1位)は、カナダ(同6位)、ブラジル(同9位)との2試合に臨んだ。
日本は多彩なラインナップで相手を翻弄し、開幕から負けなしの4連勝で決勝トーナメント進出を決めた。
6月のCanada Cup決勝では延長戦にもつれこむ大接戦を繰り広げたカナダとの一戦。
両チームともに前回の対戦とは異なるスターティングラインナップでティップオフを迎えた。
今大会好調のチーム最年長・島川慎一が立て続けにカナダのパスを奪うとすかさずトライに持ち込み、開始早々3点をリードした日本が主導権を握る。スペースを広く使いながら、トライライン手前の最後の砦“キーエリア”ではディフェンスが機能、開幕からの3試合で一番の立ち上がりを見せ、王者の貫禄すらただよう堂々としたラグビーを展開する。一方のカナダは精彩を欠き、Canada Cupで見せた勢いは影をひそめた。
日本リードのまま26-23で試合を折り返すと、後半は、日本のラインナップの充実さが際立った。
なかでも、7つに分かれた障がいクラスの中間にあたる“ミッドポインター”の中町俊耶は、持ち味のパスに加え強化してきたランでターンオーバーを奪うと、ディフェンスでも好プレーを見せる。ベンチに戻るとキャプテンの池透暢から「100点!」と最高の評価をもらい、笑顔がこぼれた。
最終ピリオドも危なげないプレーでリードを保ち、52-47で勝利。8分×4ピリオド、32分間の試合中、チーム最長の28分以上ものプレータイムでファイトした池が「プレーヤー・オブ・ザ・ゲーム」を受賞した。
4時間後におこなわれた2試合目のブラジル戦。
2019年に東京で開催された国際大会「車いすラグビーワールドチャレンジ2019(WWRC)」以来、3年ぶりの対戦となったが、「試合をするごとに強度もチーム力もあがってきて成長している」と語る池崎大輔の言葉がコート上で表現される。
この試合のキーワードは、「バランスライン」だ。
障がいクラスの数字が小さいほど障がいが重いことを意味するが、0.5から3.5まで、0.5刻みで7つに分けられたクラスのうち、クラス0.5~1.5の選手が“ローポインター”、クラス2.0と2.5は“ミッドポインター”、クラス3.0と3.5は“ハイポインター”と呼ばれる。
コート上4選手の合計は8.0点以内と定められており、その組み合わせは自由だ。
日本はこれまで、ハイポインター2名とローポインター2名の組み合わせによる「ハイローライン」を強みとしてきたが、この試合では、ロー・ミッド・ハイポインターを組み合わせる「バランスライン」と呼ばれるラインナップが躍動した。
驚くことにこの試合で日本は、実に5パターンもの「バランスライン」をコートに送り出し、テンポを変え、色を変え、ブラジルを惑わせる。
これを可能にしているのが、ミッドポインター陣の成長だ。
ケビン・オアーHC(ヘッドコーチ)はその要因として「競争力」を挙げており、ミッドポインター同士切磋琢磨することが成長に繋がったと話す。ボールのポゼッション率、さらに攻撃と守備における戦術の理解と遂行力が、実戦でも起用できるとHCの信頼を得た。
中町によると、強化合宿では多くのバランスラインを試し、ハイローラインに対して練習を重ね、「どうやったら自分たちの形を作れるのか考えてきた中で引き出しが増えた」という。
オフェンスとディフェンスの“オールラウンダー”的な役割が求められるミッドポインターの判断と動きの対応力がカギを握るバランスライン。
ブラジルは必死にくらいつくも、変化し続ける日本が一枚も二枚もその上をいき、58-37で試合終了。WWRCでの対戦ではチーム最多得点をマークした橋本勝也が、ディフェンス、オフェンスともに力強いプレーで勝利に貢献し、前日のコロンビア戦に続き2度目の「プレーヤー・オブ・ザ・ゲーム」を獲得した。
日本は10月13日、予選ラウンド最大の山場であるオーストラリアとの一戦に臨む。
一方、プールAでは2年後にパラリンピック開催を控えるフランスが、東京パラリンピック金メダルのイギリス、銀メダルのアメリカを破り、日本と同じく4連勝をあげている。
過去最高に熾烈でエキサイティングな車いすラグビー世界選手権に注目だ。