ラグビーリパブリック

ファンと選手の「共感」を集める。沢木体制3年目のイーグルス、主体性を引き出す。

2022.10.13

新シーズンへ向けトレーニングを重ねる横浜キヤノンイーグルス(撮影:向 風見也)


 あいにくの天気に見舞われながら、受付のテントの前には行列ができた。

 ジャパンラグビーリーグワン1部の横浜キヤノンイーグルスは10月10日、今季2度目の公開練習を実施した。東京都町田市内のキヤノンスポーツパークへ、サポーターズクラブの会員を約160名、抽選で招いた。

 トレーニングが始まる前には、永友洋司ゼネラルマネージャー(GM)が自ら施設見学ツアーをアテンド。クラブハウス、サブ的に使う人工芝グラウンドを回ってメイングラウンドへ戻ると、拡声器を持ってスタンド下のスペースから芝に出てくる選手やスタッフを紹介。観客の拍手を促す。
 
 この日のチームは、サインプレー、攻撃の連携、組織防御のシステムを確認。実戦練習で熱を放った。ひとまず、東芝ブレイブルーパス東京とのトレーニングマッチを15日に見据える。

「(シーズン前の練習試合では)これまで取り組んだことの成果を出せるかどうかをチェックします。コーチングは完ぺきにはいかない。だから、おもしろい。思うようにいかないところを、自分たちの描いた方向に進めていくか…」

 これから始まる試行錯誤を楽しみにしているのは、沢木敬介監督。端正な顔立ちとストレートな意思表示で知られる。

 結果も出す。2016年度からの3シーズンは、現役時代にプレーした現・東京サントリーサンゴリアスを率いて2度の日本一を達成した。

 イーグルスでは2020年度から指揮。着任後初めて迎えたトップリーグの最終年度は、16チーム中12位だった順位を5位タイ(8強)に引き上げた。

 2022年1月からのリーグワン元年は、12チーム中6位。ただ、クラブ史上初の4強入りを終盤まで争った。同年12月からの新シーズンで壁を乗り越えるべく、年間計画を見直した。

 プレシーズンの全体集合を例年よりも約2か月も遅らせ、9月上旬とした。その代わり、前年度の始動時におこなってきた走り込みは各自でこなすよう指示。さらなるブレイクスルーのため、個々の主体性を育みたかったからだ。

「(雌伏期間に)どう成長するかのプランを自分で考えられるか(を見たい)」

 期待通りだった。集合時に体力数値を測ると、「外国人も含めて75パーセントくらいの選手が(体力測定の数値で)パーソナルベストを出してきた。『どうしようもない!』という奴が、いなかった」と沢木は言う。

公開練習日、明るい表情の選手たち(撮影:向 風見也)

 おもに司令塔のSOを務める小倉順平は、こううなずく。

「ラグビー的な部分は去年から継承しつつ、新たなものを作り上げている。(始動時期を変えたことによる)出遅れ感はないですね」

 従来のようにハードワークも続ける。

 9月下旬から10月上旬には、菅平合宿を実施した。「菅平の環境でしかできない、精神的にも、肉体的にもハードなトレーニングをしてきました。ラグビーをしながら、坂道を走りながら…」と沢木。狙いと収穫をまとめた。

「菅平で体力づくりを…ではなく、ベースができた状態で菅平に行き、さらにレベルアップをする。(感触は)いいんじゃないですか。人生で一番きつかったという奴もいたし。過酷な練習をしている時に、ギブアップせずにファイトしているかどうか。俺は、それを確認してきた」

 練習後のグラウンドで取材に応じる直前には、スタンド前段から向くファンのスマートフォンへ「はい、どうぞ」と視線を向け、周りに近づいてきた子どもの色紙やジャージィにサインペンを走らせる。

イーグルスの沢木敬介監督(撮影:向 風見也)

 普段は選手にゲキを飛ばす姿が印象的な沢木を、「優しいと思うんです。ああやって、怒ってくれるコーチはなかなかいないです」と見るのは川村慎。日本ラグビー選手会の前会長でNECグリーンロケッツ東葛から移籍1年目というHOは、想像力を働かせる。

「僕はたぶん、コーチに向いていないと思います。できない人には、あそこまで(沢木のようには)言えないんです。『はいはい、終わり』となっちゃう。そんななか敬介さんは、毎度、毎度、徹底して、フォーカスポイントを絞って、判断、決断して、僕らに伝えて、プレッシャーをかけながら練習させてくれる。きっと、コーチ側からしたらかなり面倒くさい作業をしてくれているんですよ。ありがたいです。若い選手はプレッシャーをプレッシャーのまま感じてしまうと思います。そこで『いや、あれって実はね…』と翻訳するのが、僕の役目だと思います」

 沢木はオフの間、南アフリカ代表の活動にも一時同行。視野を広げている。改めて、コーチングの醍醐味を述べる。

「あ、いいな、ちょっとよくなってきているな、おもしろいな、と共感させることが、コーチの力。じゃないと、(周りは)ついてこないでしょ」

 人とチームを伸ばし、勝つことで多くの国民の「共感」を集めたい。