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【ラグリパWest】共学へのかじ取り役。伹尾哲哉 [神戸親和女子大学/副学長、大体大ラグビー部OB]

2022.10.08

神戸親和女子大学の副学長である伹尾哲哉さん。大阪体育大学でプレーしたラグビーマンだ。この女子大は来年4月から男女共学になり、校名を「神戸親和」に変える



 神戸の三宮に「Collapsing」というバーがある。コラプシング。マスターの森本努はラグビー経験者。バックローとして大体大から、今はなきワールドに進んだ。

 アパレルから夜の仕事に変わって、不定休で30年以上が経つ。幾万の客を見て来た。その森本が尊敬をこめる先輩がいる。

「あんなええ人はおらん」

 先輩は伹尾哲哉。大体大の3つ上。珍しい姓、「たじお」を自らが説明する。
「京都の長岡天神の石碑には、いくつか同じ名前がある」
 由緒ある姓である。略式で最初の漢字は「但」を使うこともある。

 伹尾は森本の店で穏やかに酔う。体育会系クラブにありがちな神様と奴隷の関係は彼方に飛ぶ。無茶も吹っかけない。

 伹尾は副学長と教育学部の教授を兼ねる。勤務先は神戸親和女子大学。地元では正しい「しんわ」ではなく、「しんな」で親しまれている。学部は伹尾のいる教育と文学の2つ。教員養成で名が通る。女優やモデルをこなす藤原紀香の母校でもある。

 副学長は2人。その上に学長と理事長がいる。伹尾は責任者のひとりだ。就任は4年前の4月だった。
「この学校に人生の半分おるなあ」
 体育関連を伝える日焼けした顔が崩れる。髪を短く刈り、てっぺんをとがらせる。女子と接するためお洒落で清潔。還暦を3つ超えているとは思えない。

 この大学では来年4月、大きな変革がある。共学化に踏み切る。

「ウチは共学になるべき。女子大に行ったり、教員になりたい高校生が減ってきている。共学になることによって受け入れを増やしていくということ。社会貢献のひとつです」

 新校名は「神戸親和」。できて58年目の共学化である。その祖は明治中期にできた女学校。それが高校と中学になり、1966年(昭和41)に大学が設置された。

 伹尾はスムーズな共学移行を予感する。
「ウチには通信教育の課程もあって、男子もいる。時々スクーリングに来る」
 大学は緑豊かで「裏六甲」と呼ばれる神戸の鈴蘭台にある。

 伹尾の存在もあって、この学校にはラグビー部がある。
「平尾が来た2008年に創部した」
 平尾剛(つよし)は教育学部の教授。神戸製鋼(現・神戸)ではバックスリーとしてならし、日本代表キャップ11を持つ。

 このクラブはタッチフット系のため、2年前に女子ラグビーの神戸ファストジャイロと提携する。伹尾は言う。
「産学連携やね」
 勉強はここでして、本格的な競技は外でやる。そんな学生が5人いる。

「学生とラグビーの話ができるのはうれしい。お父さんの意識。あっ、もう娘というより孫か。一生懸命やっている姿がいい」

 伹尾がラグビーを始めたのは大体大入学後。浪商(現・大体大浪商)では剣道部だった。
「ボール持って自由に走れるところがよかった。サッカーは蹴らなあかんからね」
 入学と同時に坂田好弘が監督に就任する。

 坂田は近鉄(現・花園L)でウイングとして日本代表キャップ16を得た。
「練習はしんどかったなあ」
 伹尾は思い出す。当時の学舎は茨木。そこから淀川沿いのグラウンドまで片道4キロを走る。練習を終え、同じ距離を走って戻る。

 伹尾の体格は180センチ、64キロ。最初のポジションはロックだった。
「どんな時代や」
 じきウイングに移る。卒業して2年、コーチをつとめた。計6年、坂田のそばにいた。当時はみな「監督」と呼んだ。

「今、大学の経営に関わっている中で、監督の影響がすごく大きい。当時、作戦変更が当たり前やった。展開の練習をしてきても結果がでなければ、『上げろ』。ハイパントやな。勝たすことに集中してはった。なんでやねん、と思ったこともあった。でも今考えれば、3日やってアカンかったら切り替える。その覚悟や勇気が大事なんや。そのことを監督から学ばせてもらった」

 大体大の初めての大学選手権の出場は伹尾のひとつ下の学年。18回大会(1981年度)は明治に10−28で敗れる。翌年度も出場。明治に初戦連敗。スコアは22−41だった。この19回大会で伹尾はコーチだった。

 今、大体大は大学選手権出場を27回とする。最高位は4強。3回ある。坂田は後年、関西ラグビー協会の会長をつとめる。

 伹尾は前名の親和女子の講師になったのが1987年。そこからたたき上げる。大学は追手門(おうてもん)、関大、大阪歯科、そして母校でも教えた。高校の教壇にも立った。

 追手門ではラグビーのコーチもした。新和女子ではソフトボールの顧問もつとめた。
「名前だけ顧問や」
 伹尾は笑うが、女子大学日本代表のアシスタントコーチも経験する。森本は評する。
「あの人は実力で今の位置に来はった。色々回って力をつけはったんや」

 来年4月からは男子が入学してくる。
「グラウンドがあれば、平尾に、本格的なラグビー部を作って、と言えるんやけど」
 校内には60メートル四方ほどの土のグラウンドしかない。テニスやサッカーは学外の契約コートやグラウンドでやっている。

 ただ、今の伹尾にとって、ラグビー部が本格化しようが、しなかろうが、さしたる問題ではない。これまで、ラグビーの土台で生きて来た。これからもそれは変わらない。


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