今、三重の高校ラグビーの中心にいる。
朝明である。この県立校をラグビー関係者は、「あさけ」と読むようになった。「ちょうめい」と間違えない。強豪化を示す。
監督は7年目の保地直人。姓は「やすじ」。おにぎりのような顔は炭火に置いたように日焼けする。目じりは常に下がっている。
その温厚な保地が、珍しく意気込む。
「この秋に勝てば、県大会11連覇になって、10連覇の志摩の記録を抜きます」
積み重ねの偉大さを理解する。それが言葉の勢いに表れる。
秋の県大会はすなわち、全国大会予選。開催グラウンドから「花園」と称される。朝明は2012年から負けていない。
同じ県立の志摩の記録は1965年から1974年。半世紀ほど前である。花園出場は2回。3連覇目の46回と50回。当時、三重は岐阜と出場枠を争った。三岐(さんき)の代表と呼ばれた。その志摩は現在、休部中だ。栄枯盛衰を物語る。
朝明の花園出場は12回。この歴史は2人の監督によって作られた。
「私は斎藤先生が作られたチームを預けられていると思っています。チームを強くして、3代目にわたさないといけません」
初代監督は斎藤久である。
保健・体育教員でもあった斎藤は2016年3月、離任する。あとを取ったのが同じ教科の保地だった。斎藤は今、女子ラグビー、三重パールズのGMをつとめている。
このチームにおける保地と斎藤の花園出場回数は同じ6。それでもあくまで創始者を立てる。謙遜は48歳の美徳のひとつである。
その創部は1992年(平成4)。斎藤は学校の低い評価をラグビーで変えるため、行動を起こす。韓国人留学生の受け入れ、校内グラウンドの天然芝化などをやった。留学生第一号は金哲元。スクラムハーフとして、近鉄(現・花園)で日本代表キャップ2を得た。
天然芝グラウンドは今も青々と広がる。完成は2007年。15年が経つ。
「管理は自分たちでやっています」
保地は芝刈り機を運転もする。その横には土のグラウンド。2面ともにほぼフルサイズ、70×100メートルの大きさがある。
保地は4年間、斎藤の下でコーチをつとめた。その後、上野農(現・伊賀白鳳)に4年、稲生(いのう)に8年いた。どちらでも創部した。0から作り上げる苦労を知っている。
保地の競技開始は同じ県内にある津西(つにし)に入学後だった。
「楽しそうにみえました」
ポジションはプロップ。大学は東京学芸。Uターンして教員になる。
強豪校育ちでない分、部員たちにも優しい。
「練習、始まるよー」
駆けてくる部員に声をかける。検診からの参加も知っていることもあるが、言葉を荒げることはそうはない。
この4月、部員たちの生活を考えて新しい寮に移った。建物は元ビジネスホテル。1年生は相部屋。2、3年生は個室になる。
「新しい寮は快適で楽しいです」
主将の内山陸はニッコリする。スピード豊かな3年生フルバックである。
現在の部員数は54。女子マネ5人を含める。寮生は23人だ。寮生が半数に迫るのは、県が特別入試を定めているからである。正式名称は「保護者の転住を伴わない県外からの入学志願者への特別入試」である。
保地は説明する。
「朝明のラグビーは県の強化指定に入っているので、この入試制度が使えます」
内山もこの制度を使った。ラグビー部のある愛知の中学、御田(みた)出身。朝明に来れば、3年間とも聖地出場の可能性が高い。中学生が進路を決める理由付けになる。
内山が先頭に立つチームは3月、全国選抜に2大会連続8回目の出場を決めた。初戦で京都工学院に7-47。敗者戦で48-14と大津緑洋を降した。23回大会である。
6月の東海大会では各県1位が戦うAブックに入る。初戦は東海大翔洋に29−12。決勝は中部大春日丘に5−67と差をつけられた。
「ディフェンスを頑張って、トライを獲られないようにしないといけません」
内山は話す。今は15対15の試合形式練習を多くする。FWとBKのギャップをなくし、ワンラインで駆け上がって守るよう意識している。
保地を支える主たるコーチは藤本知明とS&Cの後藤研だ。藤本はHonda(現・三重)のヘッドコーチ経験者である。
「戦術面は彼が中心になります」
後藤は選手の体を良化させる。中大OBで、朝明以外にも石見智翠館と岐阜工を見る。
朝明は県内中部の四日市市内にある、全日制の共学校。普通とふくしの2科がある。今年、学校創立45周年を迎える。
「学年7クラスが4クラスに減りました」
保地は話す。背景にあるのは偏差値の伸び悩みやバスや電車のみで通学できない交通の便の悪さなどだ。ラグビーで有名になることは、人気獲得の一助になることを意味する。
11連覇と記録のかかった花園予選は、唯一のシード校として4強戦から登場。四日市農芸と愛農学園の勝者と10月23日に戦う。
その先は保地、内山ともに口をそろえる。
「花園ベスト16」
3回戦進出。いわゆる「正月超え」だ。チーム未踏である。これまでの最高位は2回戦進出。4回ある。昨年度の101回大会は初戦で青森山田に17−38で敗れた。
全国にその名は通った。次のステージに上がるべく、2代目監督の下、青いジャージーは努力を重ねてゆく。