ムーブでの立ち位置の取り方は、コースは。
コンタクト前のフットワークは。
ボールを持っての際のプレーでは、どんな意識を。
エッジで2対2になった時の考え方は。
周りを生かすためのコミュニケーションの肝は。
「リーチさんにいろいろ、プレーについて聞いています」
何を聞いているのかと記者に問われると、「多くのことを聞いているので…」と目線を泳がせた。本人もあらためて思い出すのが難しいようだった。
9月30日、翌日にオーストラリアA代表との試合がおこなわれる秩父宮ラグビー場で、下川甲嗣がメディアに心境を話した。
まだキャップは持っていない。この試合でもそれを戴くことはない。ただ、下川にとっては日本代表と変わらない決意と準備を尽くして臨む大舞台だ。リーグワン2年目へ向かう23歳、先発FLの座をつかんだ。
2週間前、宮崎合宿に合流してしばらくは、ジャパン環境に慣れるのに必死だった。
「周りの選手は今回の合宿で、新しい決めごとなどをインストールしている。僕は今までの部分も覚えなくてはいけない。基本の部分は、理解しました。だけど、これは実際にプレーすることで本当に覚えることができるので、場数を踏めるように積極的にプレーしています」
オーストラリアA初戦メンバー発表に伴って、その下川についてヘッドコーチのジェイミー・ジョセフが触れた。
「東京サンゴリアスでいいプレーが目を引いた選手。フットワーク、いい動きをしている。体も強い」
この試合はテストマッチ。記録上は準代表扱いだが、下川だけでなく、坂手淳史キャプテンも指揮官も異口同音にこのチームの本気度を露わにしている。豪州側が「多くの選手にゲームタイムを」と繰り返しているのとは対照的。その一員に選ばれた。自然、気持ちも引き締まる。
合宿に合流してからは、ジャパンへの順応に力を尽くしてきた。リーチに「師事」するのは漠然とした理由ではなく、ゲームの中で果たす役割に共通点が多いからだ。
「アタックでは、エッジ(タッチライン際)に立つことが多い。立ち位置や相手の目線などに気をつけています」(宮崎合宿で)
冒頭のような質問の粘り強さ(?)には、さすがのリーチも表現をしきれないこともあったようだ。
「そこは、センス!って言われることも」(下川)
そして9月末。
一通りのインストールを終えると、正番号が待っていた。
「選んでもらって感謝しています。今は、わくわくした気持ちです」(9月30日)
「ただ、ポジションを獲ったというよりは、自分の強みをどれだけ実戦で見せられるかのテストだと思う。このチームの中で自分を表現できるようにしたい」
発揮するべき下川の強みは、ハードワークとボールキャリーだ。果物を持つようにボールを片手でつかみ、足を細かくさばいてコンタクト、前に出る。さらに味方を呼び込み前進を託す。
運動量と、基本に忠実なプレーで、どれだけ周囲と響き合えるのか、フィジカル自慢のオージーたちが相手なだけに楽しみだ。スクラムの反対側につくFLはピーター・ラブスカフニ、8番をつける最後尾にはリーチ マイケルが入る。ジャパンのキャプテン経験者のサポートのもと、思い切ったプレーが見たい。
「最終的にはワールドカップが目標。この3週間の結果としてニュージーランド戦の選考に入れたら。ですが、今は、明日に集中したい」
キックオフは19時。ヤングガンのデビュー戦は、観客にキャップのあるなしを忘れさせる80分になる。