ラグビー日本代表にとって、来年のワールドカップ(以下、W杯)に向けた試金石となる秋の6連戦が、10月1日からいよいよ始まる。
まずはJAPAN XVとして、ワラビーズの予備軍にあたるオーストラリアA代表との3連戦に臨む。その後、10月29日にオールブラックスと国立で対戦しヨーロッパへ。11月12日にイングランド、20日にフランスと戦う。
最初の3戦はキャップ対象外の試合となるが、坂手淳史主将は「(テストマッチと)まったく違いはない」と語気を強める。
「テストマッチと同じ準備です。週初めにチームには『テストマッチのメンタリティでいく』と話しました。テストマッチというのは国同士の真剣勝負。結果を出さなければいけません」
坂手主将が明かした、この6連戦のキーワードは「ベースキャンプ」。来年のW杯までの道のりを「山」に例えて説明する。
「W杯に向かって山を登っていく中で、いまは自分たちのベースを作る期間。自分たちのラグビーをどうしていくか、日本のラグビーとしてどう戦っていくかのベースを作っている段階です。そのベースキャンプは(W杯)本番で結果を出すために一番重要になる。毎日の練習、毎週のゲームが大事です。6試合積み上げて今後につながるシリーズにしたい」
ジェイミー・ジョセフHCや前回大会を経験した代表選手たちは、かねてよりフランス大会までの課題に「選手層の厚さ」を挙げる。本大会では33人(フランス大会から2枠増)のスコッドをフルに活用し、選手を入れ替えながら同じ質のパフォーマンスを発揮して、タイトスケジュールの連戦を戦い抜きたい。
ジョセフHCはこの1年、その課題の克服に取り組んできた。夏は70人を超える選手たちを日本代表とナショナル・デベロップメント・スコッド(NDS)に分けて合宿を実施。NDSのメンバーにもテストマッチの機会を与えた。9月には50人もの選手をひとつの場所に集め、日本代表候補合宿(別府)をおこなった。
ハードなトレーニングを課しながらジャパンとしてのスタンダードを落とし込み、テストマッチレベルの強度で戦える選手たちを見極めてきたのだ。
坂手主将はこの秋のシリーズを「大きなチャンス」と捉える。2か月弱で6試合をこなすことは、フランス大会の予行演習にもなる。
「全員が出られるかは分からないが、(出た選手)全員が試合で良いパフォーマンスをして、このレベルで戦えるというのを証明したい」
今夏に続いて日本代表の船頭役を任された坂手主将は、オーストラリアA代表との初戦に先発する、FL下川甲嗣やSO中尾隼太といったノンキャップの選手を気遣う。
「新しい選手に伸び伸びやってもらえるようコミュニケーションを取る。僕たちはしっかり体を張りたい」
自身は先のフランス戦2戦目で代表キャップ30に到達した。26歳で出場した3年前の前回大会を振り返りながら、これまでの変化を口にする。
「19年は選ばれることが目標だった。憧れの舞台に立って、当事者でしたけど、どこかふわふわした夢の中で戦っている感覚でした。
でも、いまはどうチームをドライブするかを考えて過ごせてる。リーチさん、ラピース、(堀江)翔太さんに、プレーやメンタル、いろんなことを教わりながら、僕自身のキャパシティも大きくなった。フィジカルやラグビーの理解度についても、19年の時に比べて大きく成長できている」
リーダーシップについては、前回大会で主将だったリーチ マイケルから高い評価を得る。リーチは夏のフランス戦第2テストの試合後、成長を遂げた選手に李承信、根塚洸雅、辻雄康ら若手の名前を挙げながら、「でも一番は坂手」だと話した。
「リーダーだなと、あらためて思いました」
当の本人は「僕ひとりでは何もできない」と話すも、真意は言葉の通りではないだろう。秋のキャンプでは個々がリーダーシップを取ること、チームに対して自分の責任を果たすことを仲間に求めてきた。「その上でチームに参加しないと日本代表のスタンダードは上がらない」。そうした思いも新スローガン「Our Team」には込められている。
「経験のある選手がたくさんいるので、助けてもらいながらやってます。この秋は(流)大さん、姫野、マツ(松島)、(中村)亮土さんも帰ってきた。彼らともコミュニケーションを取っているし、チームづくりにもすごく貢献してくれる。僕ひとりでは何もできません。全員で良いチームを作りたいです」
チームの代弁者となって半年にも満たないが、報道陣に向けた発言にはいっさい迷いがない。ぶれないジャパンのスキッパーは、10月1日の初戦も背番号2で登場する。