「コンニチワ、ヨロシクオネガイシマス!」
新任のヘッドコーチはやさしい笑顔で、まず片言の日本語で挨拶した。
日本ラグビー協会は9月29日に都内で会見を開き、2024年パリ五輪に向けて男子セブンズ(7人制ラグビー)日本代表ヘッドコーチ(以下HC)にサイモン・エイモー氏(現・セブンズ日本代表男女テクニカルディレクター)の就任を発表した。
男子セブンズ日本代表は2016年リオ五輪では4位と躍進したが、昨年おこなわれた東京五輪では11位と低迷。サクラセブンズ(女子セブンズ日本代表)が出場した今年のワールドカップセブンズ2022の出場を逃し、世界のトップチームが約半年間、世界各地を転戦して戦うワールドラグビー セブンズシリーズ2022でも、大会に常時参加できる“コアチーム”中、最下位の16位に終わるなど、2024年パリ五輪でのメダル獲得に向けて強化が急務となっている。
男子代表は東京2020以降、梅田紘一ヘッドコーチ代行のもと活動を続けてきたが、HSBCワールドラグビーセブンズシリーズ2022が8月末に終了。10月22日からはアジアラグビーセブンズシリーズが始まり、11月からスタートするHSBCワールドラグビーシリーズ2023、そして2024年のバリ五輪に向け早急な強化が必要とする日本ラグビー協会は次期HCとして、セブンズの実績と指導経験があり、テクニカルディレクターとして代表を見てきたサイモン氏に白羽の矢を立てた。
会見の冒頭で7人制ナショナルチームディレクターの徳永剛氏は「パリ五輪まで2年を切り強化を加速する意味でも、サイモン氏の力が必要であると感じている。特にパリ五輪のアジア予選を来年に控えており、リオ五輪においてもイギリス代表を短期間でまとめ上げ、銀メダルを獲得した手腕に期待している」と期待を口にした。
サイモン新HCは、日本語の挨拶に続き「まずはHCを拝命したことを光栄に思っている。昨シーズンはコロナ禍もあり、非常に難しいシーズンだったが、そんな中で新しい優れた才能を持つ選手が出てきてくれた。このあとの1年はたくさんの大会があり、とてもエキサイティング。沢山経験して、学んでいくという時間にできるチャンスだと思う」と話した。
そして「シーズン開幕にあたって自分たちがどういうプレーをしたいのか、自分たちのアイデンティティはどういったところにあるのかというのをしっかり固め、そのピークを一番大事なところに持っていき、アジアゲームで勝ち、ワールドシリーズで勝ちたい」と抱負を語った。
サイモンHCは、現役時代は英国プレミアムシップ・ラグビーでSH、SOとしてプレー。2001年から2007年はイングランドセブンズ代表となり、主将も務めた。2004年にはIRBセブンズプレーヤーオブザイヤーを受賞している。指導者としても2009年に女子セブンズイングランド代表のHC、2013年から2020年までヘッド・オブ・イングランド・セブンズとして男女の強化を任され、2016年リオ五輪では英国代表を準優勝に導き、その後のワールドシリーズ、コモンウェルスゲームでのメダル獲得に貢献している。2020年にはエディー・ジョーンズHCのもと、15人制イングランド代表のアタックコーチを務めている。
「私自身はイギリス代表、イングランド代表を指導した経験を活かせることを非常に楽しみにしている。エディー・ジョーンズ氏のもとでのコーチングの経験、そこでの学びも活かせると思う。同時に日本の持っている独自性、強みをうまく出していくために、これから日本のあるべき姿がどういうものがいいのかしっかり学んでいきたい」
そしてサイモンHCは日本の強みとして、「相手の分析力」を挙げ、「その分析力を生かせばどんな相手に対してもチャンスはある」と話し、同時に日本人選手の特性としてコミットメント、フットワークの良さを挙げた。
「まずは日本人選手が持っている強みにフィットしたプレースタイルをきちんと確立し、実践できるようにフィットネスレベルを上げていくことが必要。そして重要なことは、勝てないときもあるけど必ずそこで学ぶこと。それをスタートから積み上げていくことで、勝利につながると思ってる」
来るべきシーズンに向けて「今年は厳しい年になると思う。ただ、我々としてはこれまでで一番の成績を残せるシリーズにしたいと思っている。得点、ポイントでも今までで一番の記録を残したい。そして、これまで一度も勝ったことがないチームにぜひ勝ちたい」と力強く目標を語った。
就任会見の翌日の9月30日から沖縄合宿がスタート。10月22日からアジアラグビーセブンズシリーズの第1ラウンドがタイでおこなわれ、11月4日からはオリンピック予選を兼ねたHSBCワールドラグビーセブンズシリーズ2023が香港で開幕する。
新HCのもと男子セブンズ日本代表の熱い戦いが始まる。
プロフィール
Simon Daniel Edward Amor
1979年4月25日生まれ、ロンドン出身。ケンブリッジ大学卒業。168㌢・76㌔。現役時代のポジションはSH、SO。ロンドンアイリッシュ、グロスター、ロンドンワスプス、ロンドンスコティッシュなどでプレー。2003年にはイングランド代表としてバーバリアンズと対戦。2001-07年には7人制イングランド代表で、その間主将も務め香港セブンズでは4度の優勝。04年IRBセブンズプレーヤーオブザイヤーを受賞。08年にはコーチ兼任でロンドンスコティッシュでプレー。09年に7人制イングランド女子代表ヘッドコーチに就任。10年にロンドンスコティッシュHC、13年から7人制イングランド代表HCを務める。16年、20年五輪でイギリス男子代表チームHCを務め、リオ五輪では銀メダルを獲得。20年からエディー・ジョーンズHCのもと15人制イングランド代表のアタックコーチを務める。2021年12月に7人制男女日本代表テクニカルディレクターに就任。 2022年9月29日、男子セブンズ日本代表HCに就任した。