16歳の少年はニュージーランド(以下、NZ)、ロトルアに住んで5年目を迎えている。
仲間たちに『ヨシ』と呼ばれるロトルア・ボーイズハイスクールのSHは、異国の地での生活の様子を話す時、終始笑顔だ。
安樂圭将(あんらく・よしまさ)が昨年 U16ベイ・オブ・プレンティ代表に選ばれたのに続き、今年はU18同代表に選ばれた。
より高い目標に向かって成長を続けている。
福岡・北九州出身。ラグビーマンの父、一樹さんの影響を受け、もの心ついた頃から楕円球と親しんできた。
帆柱ヤングラガーズでラグビーの基礎を作った。
オールブラックスになる。
その思いが強まったのは小学生の頃だ。
年上のラグビー選手たちの優しさに触れたことがきっかけだった。
ゴールデンウイークには毎年、宗像市のグローバルアリーナで開催されるサニックス ワールドラグビーユース交流大会を観戦に行っていた。
ある年、NZからやって来たケルストン・ボーイズハイスクールの選手たちとの交流が生まれる。
のちにトンガ代表SHとなるレオン・フコフカらケルストンの選手たちは、試合や練習を熱心に見つめる地元の少年に声をかけ、パスをしたり、ともに時間を過ごす。
ヨシはラグビー王国からやって来た兄貴たちに憧れ、海の向こうへ思いを馳せた。
東芝ブレイブルーパス東京で活躍する小川高廣(SH)との時間も、少年の心を熱くした。
ラグビーマガジンを読んで、同選手が同じ小学校(北九州市立八枝小)の出身と知る。
ファンレターを出した。
返事が届く。
帰省時に一緒に練習をしてくれることになった。
将来は自分もトップチームでプレーしたいと強く思った。プロ選手として活躍する未来図を描いた。
その夢を実現するために家族と話し合い、動いたのは小学校6年生時の3学期だ。
ラグビー王国へ行く。
その行動力には驚かされる。
現地での短い中学校生活も含めて、留学5年目。現在、高校2年生にあたる。
高校3年まで同校で学んだ後の進路はまだ決めかねている。
NZの大学で興味のある建築の勉強をしながら、クラブでプレーを続ける道も頭にある。
その先にスーパーラグビーやオールブラックス、日本のトップチームでのプレーなど、プロ選手への道を歩み続けたい。
NZでのラグビーライフを心の底から楽しいと言えるのは、プレーヤー・ファーストの指導が心地よいからだ。
「自由にプレーできます。コーチは選手たちのプレーに対して、あとで判断の理由を聞くことはあっても、『それはいい考えだ』、『そういうことか』と認めてくれます。『こういう考えもあるよね』とか、会話をしながら上達できる」
そんなコーチングだから、NZの選手たちは個性的だ。みんな、のびのびとプレーする。
安樂自身は167センチ、68キロ。渡航直後はFLでプレーしたこともあるが現在はSH。タックルやディフェンスが強みだ。
「(ロトルア・ボーイズハイスクールの)ファーストフィフティーンのSHはスピードとステップが良くて、もう一人はとにかくスピード」
自分自身は、緩急をつけたゲームコントロールができるSHになるのが目標だ。
高校のチームでは留学生枠もあり、現在はセカンド・フィフティーンのジャージーを着る。
TJ・ペレナラが憧れの人だ。プレーも参考にする。
「ペレナラやアーロン・スミスの試合を見ていると気づくことがあります。ふたりとも、ずーっと声を出して周囲とコミュニケーションをとっています」
そんな姿勢を見習いたい。
日本で活躍する幼馴染とは連絡をとっている。
例えば佐賀工で活躍する服部亮太。U17ユーストレセンのメンバーに選ばれたSOは、親友のひとりだ。
友の花園での活躍やユース代表選出は刺激になる。
しかし、それを羨むことはない。自身のNZでの生活も充実している。お互い好きな道を歩み、将来、トップレベルで戦えたら幸せだ。
マオリやアイランダーと何の隔たりもなく過ごす日常は、現代社会が求める多様性を認め合う生活そのものだ。
人生を豊かにしてくれる環境がそこにある。
2年前に書いた「自分史」には、留学直後に自分を差別した仲間とケンカになったこと、その相手がすぐに親友になっていったことを書いた。
幼い頃に口にした夢を担任の先生がさりげなく聞いてくれていて応援してくれたことへの感謝なども綴り、親元を離れる不安、それを上回る楽しみなども文字にして書き記した。
濃密な青春時代を過ごしている若者は、もっと多くの人が海外にチャレンジすればいいのに、と思う。
「ホームシックには誰でもなるけど、絶対に仲間が助けてくれる。すぐに楽しくなる」
自分の興味のある科目を選択する教育システムも気に入っている。
「自分のしたいことに集中できる環境があります」と相好を崩す。
オールブラックスになりたい。
その思いひとつで海を渡った少年は、生きるフィールドをどんどん広げている。
ひとりの人間としての成長は、必ずプレーヤーとしての進化にも直結するだろう。