川越キャンパス内にあるグラウンドの脇で、異様な鳴き声を聞いた。
9月20日の午前、練習後のことだった。
その様子を第一発見者の田中康平が話す。
東洋大ラグビー部の4年生、バックスリーダーを務めている。
「インコがいました。何羽ものカラスに襲われていたので、威嚇して追い払い、助けました」
同期のCTB、大島暁も手伝ってくれた。
機転が利いていたのは、その後の行動だ。
「野生のインコは見たことがなかったので、飼われていたものではないかと考えました。足にリングもついていました。それならSNSに何かヒントがあるかもしれないな、と」
検索。そして見つけた。
隣町の人が飼うオカメインコが、台風の中、外に飛んでいった。「みなさんの力を貸してください」と書き込んでいる。
白でトサカが黄色。足にはリング。
間違いない。
「ご本人に連絡をしました。警察に連絡をして保護していただいたので、そのことを伝えました」
安心してもらえるように、カラスからの難を逃れたあとのオカメインコの写真も送った。
しばらくして、飼い主の方のSNSに「半分あきらめていましたが皆さまのおかげで本日みつかりました」と書き込みがあるのを見つけてホッとした。
「東洋大ラグビー部の方が体を張って助けてくれました」と書いてあるのを見て嬉しかった。
今季29年ぶりに関東大学リーグ戦1部に復帰した東洋大。9月11日におこなわれた今季初戦では4連覇中の東海大を破るビッグパフォーマンスを見せた(27-24)。
田中、大島とも、それぞれFB、CTBで先発し、チームの勝利に貢献した。
その試合の結果について田中は、「夢かと思うほどびっくりした」と回想する。
しかし奇跡とは思っていない。
「監督、コーチ、選手たち全員が、やってきたことを信じ抜いたから勝てたと思います」
それはグラウンド上のことだけでないと話す。私生活から全員で律することでチームは結束してきた。
ラインアウトで相手に圧力をかけ、ディフェンスで前へ出てつかんだ勝利。組織と個が噛み合った。
「僕らは凡事徹底という言葉を大事にしています。身の回りは整理整頓する。話すときは相手の目を見る。当たり前のことを当たり前にやることは、ラグビーのプレーにも間違いなくつながっています」
「困った鳥がいたら助ける。それも、当たり前のことをやっただけです」と微笑む田中は、高知・土佐塾高校の出身だ。
学生時代に楕円球を追い、地元で子どもたちにラグビーを教える父の影響を受けて小学1年生の時に高知少年ラグビースクールに入った。
花園の芝も踏んでいる。
東洋大OBの知人の勧めもあり、大学進学を決めた。
当時は2部。「下部リーグなので緩い雰囲気なのかな、と思っていたのですが、まったく違いました。人間力を伸ばしてくれるチームです。ここに来て良かった」。
今週末(9月25日)は関東学院大と戦う。「まだ1勝しただけ」と田中に浮かれたところはない。
目標は大学日本一。「そこへ向け、全員で同じ方を見て戦うことが大事」と話す。
インコは幸せを呼ぶとも言われるけれど、ほしいものは、自分たちでつかみ取る。