ラグビーリパブリック

朝練習と弁当制度導入に賛否も肉体強化にいい兆し。同大、産みの苦しみ経て開幕。

2022.09.18

群がるディフェンスを見せる同志社大(撮影:福島宏治)


 ないものねだりはしない。必要なことをやり切る。同大ラグビー部の宮本啓希新監督は、かつて自らもプレーしたチームの復権を目指す。

 秋を迎え、これまでの肉体強化で成果を実感する。

「コンタクトを繰り返せたとか、当たり負けすることがなくなったとか、(選手が)感じているものにポジティブな要素は多くなってきた。いい方向には行っていると思います」

 就任直前のシーズン。チームは大学選手権の準々決勝で敗れていた。優勝する帝京大に24-76と大敗した。

 東京サントリーサンゴリアスで選手会長、採用を歴任した指揮官は、着任後に学生のアンケートを取った。主な返答は「帝京大にはフィジカルで負けた」。自らも同意見だった。改革に踏み切った。

 京都府内のグラウンドに併設されたジムはそう大きくはなく、部員が住む寮内でもトレーニング器具の数は少ない。ただ宮本監督は、「そこを言い訳にしない」と覚悟を決めていた。

「手弁当、手作りで、試合と同じ強度やシチュエーションをいかに作り出すか…」

 目をつけたのは時間だ。こちらは、全ての者に平等に与えられる。たとえ環境面で劣勢だったとしても「言い訳にしない」と話す宮本監督は、まず、練習のスケジュールに手を付けた。

 これまで終業後の夕方以降に始めがちだった通常トレーニングは、朝の始業前に実施。その日の最大のタスクを早い時間に済ませたうえで、各部員の授業の空き時間にウェイトトレーニングの予定を入れた。

 食生活も変えた。2017年度まで9季プレーしたサンゴリアスで師事した、管理栄養士の金剛地舞妃さんに入閣を頼んだ。選手寮で提供する食事に加え、新たに導入した昼の「DRC弁当」の監修を任せた。

 「DRC弁当」にはたんぱく源や野菜が詰まっており、各自が白米を補えば立派なアスリート食となる。

 選手の体重管理を目的に、もともと各自に委ねていたランチの献立をチームが整備することになった。選手は「弁当」の実費も請求される。新たな取り組みへ異論も生じたが、そもそも学生たち自身が「帝京大にはフィジカルで負けた」と認めている。

 梁本旺義主将の証言。

「僕から見ても、皆、でかくなっているなと。自分自身も、去年のシーズンの時に比べたら10キロくらいは増えている。いきなり増やしたんで春はめちゃくちゃ重かったんですけど、いまはフィットしてきました」

 指揮官も手応えをつかむ。

「相手より小さいなかでどう戦うか(を考えること)も大事ですけど、でかくなることも大事。春の間、上のスコッドの選手は体重を(平均で)4~5キロは増やしています」

 産みの苦しみはある。5月からの関西大学春季トーナメントでは、立命大に敗れて5位に終わった。新たな攻め方を採り入れたばかりだったとあり、選手たちは消化不良の感を覚えた。

 負けから学ぶ。首脳陣と学生で、膝を突き合わせた。

 梁本主将は振り返る。

「宮本さんをはじめ指導者の方が、選手の意見を聞いてくれる。『このラグビーはしたくありません』は論外ですが、『このラグビーをするにあたって、こんな動きをしたいです』という意見を提示した時は一緒に考えてくれる。一緒に『同志社ラグビー』を作っていると実感できます」

 確固たる方針を打ち出す宮本監督は、対人関係における柔軟性でも知られていた。何より、学生のチームを率いるのに役立つ視点を体得している。

 サンゴリアスの採用時代は、2017年度に大学選手権9連覇を達成した帝京大の岩出雅之監督(当時)ら大学シーンの名将に学んできた。

 その足跡は、現職に就いてからの反省の弁にもにじむ。

「食については、自分たちが本気でやらなければいけないと思ってくれたからやったのであって、そこはほめてあげないといけないし、評価できる。ただ、学生は少し言わなくなると忘れてしまうんだな…とも。例えば『今日は少し疲れているので寝ます』となりそうな時、(必要な栄養摂取が)抜けがちになる。ここは、まだ僕が徹底できていない部分です。(食事を怠らないよう)言い続けるのが正しいのか…。いや、(選手が栄養管理を)大事だと深く思えたら、(指導者が)そこまで言い続ける必要もなくなってくる…。では、そうするためにはどうしていこうかな…と。帝京大にリクルートで行かせていただいた時、岩出先生にはラグビーの話よりも『学生に対して…』という話をよく聞いていました。その時のことを思い出しながらいろいろと考えることは、多いですね」

 春季トーナメント以降も、信じた道を突き進んできた。夏合宿では、常に全国上位を争う東海大、早大との練習試合で敗れたが、指揮官は「頭の部分で理解が進んだ」と話す。

 9月6日からの4日間は、就任時に企画した東京遠征を実現した。

 ここでは「学生たちも、上には上がいることがわからないと成長したいと思わないはず」と、サンゴリアスとの合同練習も叶えた。果たして、接点から素早く球を出す意識、技術をアップデートした。

 1982年度以降、当時史上初めてだった大学選手権3連覇を果たした西の名門。前年度は4位に終わった関西大学Aリーグの開幕を、9月18日に控える。当日は東大阪市花園ラグビー場で、立命大とぶつかる。

 梁本主将はこうだ。

「やりたいことは認識できています。それに関するクオリティが低いのが現状。そこに皆が厳しくなって、高めていければ、自分たちは強くなります」

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