早大のルーキーが、「深い」ことでほめられた。
9月10日、東京・駒沢オリンピック公園陸上競技場。関東大学対抗戦Aの初戦へ、1年の野中健吾がインサイドCTBで先発した。前年度の順位で5つ下回る7位の青学大を38-8と下すまで、随所に持ち味を発揮した。
0-0で迎えた前半17分、敵陣ゴール前での連続攻撃に関わる。
司令塔のSOに入った守屋大誠からのパスを右中間で受け、迫る防御をひきつけながら右隣にさばく。受け手となったアウトサイドCTBの松下怜央がそのまま走り抜け、先制トライを決めた。
就任2年目の大田尾竜彦監督は、野中の強みを「状況判断と(攻撃)ラインのコントロール」と見る。
松下のトライをおぜん立てしたシーンについても、球をもらう前の立ち位置に妙味があったと話す。
「野中はボールが(自身の手元に)来るぎりぎりまで、相手の状況を見ている。松下がトライしたシーンでは守屋が浅く立っていて、あそこで野中も浅かったらおそらく(タックラーに)捕まっているんです。ただ、野中はあそこでためを作れる(相手との間隔を保てる)んです。もちろんコンタクトは強いしパスもうまいんですけど、(最大の)特徴はラインに入った時にどこにボールを回せばいいかをわかりながら、それにふさわしいラインのコントロールができることです。それを今日も発揮してくれたと思っています」
ここでの「浅い」は、相手防御との距離感が近いことを意味する。その逆は「深い」。野中が「ため」を作った動きがそれにあたる。
12-3として迎えた後半17分には、野中自らがスペースを突きトライ。関東ラグビー協会選定のプレイヤー・オブ・ザ・マッチに輝いた。
周りから高く評価される。ただ、自分には厳しい。8月中旬に取材に応じた折、前向きなトーンながら自身の課題を口にしていた。
「ディフェンスで、高校時代との違いを感じました。でかい相手にどう戦うか。その部分で修正点が見つかったのでよかったです。(大田尾監督からも)アタックでは評価していただいていますが、やはりディフェンスでもっと頑張れと言われています」
入学早々に春季大会では、昨季の学生王者である帝京大との試合でアウトサイドCTBに入った。学生屈指と言われるフィジカリティを体感した。相手走者の懐に踏み込んでタックルできたのに、気圧されてしまった。
身長181センチ、体重94キロ。昨年度、東海大大阪仰星高の一員として全国高校ラグビー大会を制した名手は、「(大学で)体重は少し、落ちましたが、スピードは速くなったかなと」。まずは持久力、加速力の問われるチーム方針のもと、自然と身体を絞った。ここから徐々に、筋力をつけてゆくか。
「食事は寮で管理されているので、ラグビーに100パーセント、打ち込める。恵まれていると感じます」
現実を直視してタフに鍛える日々は、自分が追い求めた日常でもあった。
史上最多の16度の大学日本一に輝いた早大を志したのは、チームカルチャーに惹かれたからだ。このクラブでは競技力が買われた推薦選手、一般入試で這い上がった部員が混ざりあって頂点を目指す。
「自分のスキルだけで戦うのではなく、チームとしてひとつの方向を目指すラグビーが好きです。全員がトップアスリートではないなか、全員が努力して日本一に向かうという姿勢も、早大のよさだと思っています」
そう語る野中が利用したのは、スポーツ科学部の自己推薦入試だ。面接、小論文などでの審査が秋までになされる。一般的なスポーツ推薦制度と異なり、不合格のリスクも生じる。
もしも自己推薦入試、さらに冬の一般入試でも合格できなかったら、浪人して早大を目指すつもりだった。
その年の高校シーン有数の注目選手は、グラウンド外でも「勝負」していた。
「本当に受かるかどうか、わからなかったです。去年の夏頃には不安な時期も続きました。ラグビーの練習をしながら小論文や面接の勉強を並行していくのは、しんどかったです。ただ、自己実現のためにはやるしかなかった。いま思えば、やり切ってよかったです」
憧れの集団の一員となるや、初年度から勝負をかける。
「先を見据えてという考えもあると思いますが、(自分は)今季、日本一を獲るためにチームに貢献したい。目の前の自分の責任を、全うしたい」
今後も上級生たちとの定位置争いに勝ち、好きな早大の攻めに「深」みをもたらしてゆきたい。