9月13日、日本ラグビー協会は10月8日開幕のワールドカップ2021ニュージーランド大会(以下、W杯)に出場する女子日本代表、サクラフィフティーンの登録メンバー32人を発表した。
唯一NO8での登録でメンバー入りを果たしたのは、横浜TKM所属の永井彩乃。社会人3年目の25歳だ。
8月末に秩父宮ラグビー場でアイルランドを撃破した第2テストでは、背番号8をつけて先発し、後半15分までピッチに立った。たびたびタックラーを引きずりながら前進するなど、中盤エリアでのボールキャリーで魅了した。
永井自身も「アタックは良かった」と手応えを掴んだが、チームの生命線でもあるディフェンス面での課題を挙げた。
「ディフェンスが少し苦手ということもありますが、もっとひっくり返せるようなタックルができれば良かったなと。1対1のタックルになった瞬間に、焦り過ぎて前に飛び込んでしまう。コンタクトでは負けてないとアタックで感じられていたので、ディフェンスでも落ち着いてプレーできればと思いました」
反省こそ述べるも、アイルランド戦の勝利はやはり格別だった。永井はこれまで二度、アイルランドと戦い、連敗していた。
「やっと勝てた気持ちが強くて、勝った瞬間は大喜びしました」
過去の自分に打ち勝った試合でもあった。「(2戦連続で)スタメンに入れたことが、私としてはすごく光栄なことでした」と振り返る。
永井はアイルランド戦前の南アフリカ戦2試合では先発から外れていた。遡れば春のオーストラリア遠征でも先発機会には恵まれず。金星を挙げたオーストラリア戦はメンバー外だった。
そんな状況の中で、熊谷でのアイルランド戦・第1テストで約1年ぶりに先発復帰を果たす。
自己変革を遂げてのレギュラー獲得、そしてW杯のメンバー入りだった。
広島県竹原市出身。鯉城ジュニアラグビースクールで一緒にプレーした東芝ブレイブルーパス東京のHO大内真は同級生で、同郷の幼馴染だ。
ラグビーマンだった父の影響もあり、日本協会が女子ラグビーの普及と日本代表選手の育成を図るためにおこなっていた「女子ラグビー・関西ユース強化選手」のセレクションに参加。見事に通過して、中学1年時から競技を始めた。
高校は強豪・石見智翠館に通い、日体大へ。大学4年時の2019年夏、オーストラリア遠征の第1テストで初キャップを獲得した。昨年のヨーロッパ遠征では3戦すべてで先発するなど、正NO8に近づきつつあった。
だが、冒頭の通り、今夏の南アフリカ戦2試合はいずれも控えに回る。
「南アフリカ戦が終わった時にどうしてスタメンに入れないのかと、レスリーさん(マッケンジーHC)に直接聞きました。練習から”フロントフット”自分から前に出る姿勢を求めている、そこが足りていないと」
自らの性格を「ちょっと引っ込み思案なところがある」と分析する。それでもアイルランド戦を前に再招集された合宿で、これまでの自分とは違う積極性をアピールした。レスリーHCは最終選考する中で、「トレーニング中にしっかりモメンタム(勢い)を与えてくれた選手を称賛したいという気持ちがあった」。永井もそのひとりになれたということだろう。
レスリーHCに直談判できたのは、「3年間一緒にやってきて信頼関係が築けていた」のも大きかったという。
「それまでは”ヘッドコーチ”というと遠い存在でした。でもレスリーさんはいつも気にかけてくださって、直接アドバイスをもらえることも多かった。見てくれてるという安心感があって、期待に応えるためにどうすればいいか、(直接)聞ける自信、関係性ができていました」
メンタル面での成長に加え、日本代表の課題でもあるフィジカルの強化も遂げていた。平松航S&Cコーチとコミュニケーションを重ね、自分に必要なトレーニングをこなす。食事でもカロリー計算をするなどして体質を改善した。
「(2019年の)初キャップの時よりも、体重は10㌔前後増えたと思います。増えただけではなく、重心をコントロールできるようになって、どういう風に体を運べばどう前に進むのか、の感覚を掴めるようになった。いままではタックルされるとすぐに倒れることが多かったけど、いまは海外選手にも負けてない感覚を持てています」
メンバー発表のリリースに際し、永井は「生まれて初めてのW杯出場になります。嬉しい半分楽しみ半分、少しだけ緊張もしています」と心境を綴った。
「いつも遠征や試合の中では、自分の力がどこまで世界に通用するかというチャレンジャー精神で臨んでいます。今回もW杯でどこまで通じるのかとても楽しみです」
サクラフィフティーンの突破役は、ラグビー王国・ニュージーランドの地でも輝けるか。