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ブレイブルーパス、2年目の発想ジャンプ。『世界有数のユニークなクラブへ』インタビュー①荒岡義和 [東芝ブレイブルーパス東京・代表取締役社長]

2022.09.12
撮影:髙塩 隆

「涙が出てきた」

 準決勝でサントリーに敗れた2022年5月21日、花園ラグビー場から東京へ戻る新幹線で、代表取締役社長はただただ悔しくてつい泣いた。6点差だった。後半20分にトライ&ゴールで逆転され、そこから勝負をひっくり返すことはできなかった。

 何が違うんだ?

 はじめは問う調子だったのが、呟きになり、自らを叱る気持ちになってきた。

 まったく違うじゃないか。1年前のお前に、本当に日本一になる覚悟はあったか。トップがその体で、頂点に届くチームができるはずがないだろう。

 荒岡社長は車中激しく揺さぶられた感情と思考の過程を、平易に整理して、その日のうちにチームの仲間、部下に共有した。社長のひとり決起会@新幹線の最後に決意が生まれた。「俺たちは、世界有数のユニークなチームになる」。東芝ブレイブルーパス東京、リーグワン2022-23のコンセプトはその時に決まった。

       ◎

――荒岡社長の思い入れの強さが、はたから拝見していても、この1年間で大きく変わって見えます。

「正直、会社の人事でここへ来るまで、ラグビーの試合をしっかり観た経験は数えるほどでした。かつて薫田さん(現GM)が監督として率いていた強い時代の東芝は見聞きして知っていましたが、社長となる前に印象深いトップリーグの試合というのは、ボーデン・バレットが活躍するサントリーのうまさ、強さ…。そんなライトな見方でした」

――チームの一員として見るラグビーは別物に。

「そうですね。これは感情移入です。自分達の会社の選手たちが練習や、トレーニングや、ミーティングを日々、続けて喜怒哀楽を重ねているのを見ていますよね。すると、まさに、身内が試合をしている気持ちになる。興奮してくる。体に力が入って、タックルしてもされても、ぐっとくる。もう試合が終わると、ぐっ…たりです。そこに勝ち負けの感情が入ってくるので、もう、感性が丸裸にされるといいますか…」

「なぜなんだろう。ラグビーは他のスポーツとどう違うのだろうと考えたのですが。自分なりの答えは、ラグビーって武道にも似ているなと。たとえば大相撲にある形式美。あれは目に見える形で、一つのものを大切していることを表現し、伝承しています。ラグビーにおいてはそれがマインドで、精神性で表されている。みんなが共通の、軸を持って競っているように思えるのです」

「たとえば競技の中で、互いがヒートアップして小競り合いが起きる。でも、お互いが体や心を壊し合うところまでは踏み込まない。場を壊さない。あれだけ激しくやり合いながらも、みんなで何かを守っているようにも見える。大きく言うと、ルールを守ること。そして試合で起きたことが、後に尾を引かない。これは、ちょっと得難いじゃないですか。情熱、仲間意識、献身、激しさ、節度、いや矜持なのかな…。身内がその中で生きているのを見たら、多くの人は強く思い入れを持つと思います」

――そんな彼らに、「プレーオフで感じたこと」と言うのは?

「そうなんです。チャンピオンシップに対する執念の差です。サントリー(東京サンゴリアス)の選手たちには、とにかく勝つんだというマインドがうかがえました。うちの選手が少しおとなしく見えるほどでした。どんな状況でも勝利を掴む 気が出ていた。それはどこからくるか。彼らと自分たちの、スタンダードの違いではないかと。彼らは今、だけではなく、今年だけでもなく、もう何年もずっ…と優勝を目指して戦っているんですね。我々はどうか。正直に言って、シーズン前から優勝を狙っていた選手は多数派ではないでしょう。私自身、優勝という文字が現実的なものとして頭に浮かんだのはシーズンに入ってからです。まして単年の優勝でなく、常勝を基準に置いているチームと比べたら…。練習の意識、日々の意思決定、もうすべての基準が、スタンダードが違ってくるのでしょう」

――2シーズン目のブレイブルーパスに何を求めますか。

「これは選手、運営、ともに言えることです。自分の頭で考えること。始まりは何かの真似であっても、走らせてみて、もっといい方法がないかを考えてブラッシュアップする。壁に感じていることも、発想や工夫でジャンプできるかもしれない」

「もう一つは、先ほどのスタンダードについて。まずはフロント側(運営、経営)の発想についてですが、他チームや他競技と競合することを考えても限界がある。ここは本格的なエンターテインメントにヒントを求めていくべきじゃないかと。たとえば、オリエンタルランド(東京ディズニーリゾート)であり、Netflixに学びを得ることはないか。ああ、あの場に足を運びたい、行ってみたい、体験してみたいと思わせるには? つまり、現場もフロントも、目標のカテゴリーを上げなければまた限界が来る。全体として、『世界有数のユニークなクラブになる』と決めました」

――どんなアイデアが生まれそうですか。

「今度またチームとして会見を開く予定です(9月12日)。その時にある程度、まとめてお伝えしようと思います。日本ラグビーの国内リーグはイングランドの『プレミアシップ』、フランスの『TOP14』の対抗馬になりうるポテンシャルがあると思っています。それは地理的なもの、経済的なものを考えた上での見立てです。今、リーグワンはその助走の時期にある。いくつかの好条件がある他に、ならではの要素を加えるとしたら、それはアジアです。日本はアジアを象徴するリーグになり得る。欧州、南半球に次ぐラグビーの第三極になれる可能性を秘めています」

――スケールの大きな話です。

「まずは認知度です。開幕時の話題性、お客さんの様子などなどをみていると、リーグワンは、もしも感染の不安や混乱が世の中になかったとしても、観客数はそれほど多くはなかったと踏んでいます。これは体感です。リーグワンとして何かやってくれるのを待つよりも、自分たち一クラブ、一チームがアクションを起こさないと。ブレイブルーパスはその旗振り役になるつもりで、売り込んでいきます」

――荒岡社長は営業マンでした。資本については100%東芝のままですか。

「資本は当面このままの予定ですが、究極的には、ブレイブルーパスという企業に価値を感じて投資をしてくださる方が出てくるような会社に、ぜひなりたいですね。今、パートナー企業は50社ほどあり、広告を出していただくという関係性がメインになります」

――12日の会見が楽しみです。

「今お伝えできないのが、残念です」

PROFILE あらおか・よしかず●東芝ブレイブルーパス東京・代表取締役社長/1965年10月20日生まれ、56歳。新潟県出身。(株)東芝入社後、主に社会インフラ事業の営業畑を歩み、2021年4月、東芝インフラシステムズ(株)中部支社長より、(株)東芝ラグビー新リーグ参入準備室に室長として異動。同8月より現職。自身もバレーボールに打ち込んだスポーツマン(撮影:髙塩 隆)