朝からハードな練習を繰り返した9月5日の夕方、ファンにおなじみの笑顔を浮かべた。グラウンドの脇で自分を待っていた記者ひとりずつに、「久しぶりです、久しぶりです」と頭を下げた。
ラグビー日本代表の候補合宿に、具智元が帰ってきた。
身長184センチ、体重122キロと恵まれた体格の28歳。即席の取材エリアに立ち並ぶ記者へ言った。
「きつい合宿でも、懐かしい気持ちが大きいので、それがすごく力になっています」
キャンプ地の別府が、通っていた中学と高校のある佐伯市と同じ大分県内だったためだ。幼少期のニュージーランド留学を経て降り立ったこの地を、具は故郷のように感じる。
ポジションはPR。スクラムの最前列に入るタフな働き場だ。左右の違いこそあれ、元韓国代表で父の東春氏と同じ位置でもある。息子は日本国籍を取得する直前の2019年秋、ワールドカップ日本大会で日本代表史上初の8強入りを叶えている。
アジア史上指折りの右PRと言える通称「ぐーくん」だが、昨秋以降、首の痛みに悩まされてきた。
今年1月からの国内リーグワンでは、2月6日の第5節を最後に実戦から遠ざかった。三重ホンダヒートからコベルコ神戸スティーラーズに移った初年度を、不本意な形で終えた。
今年6月上旬から約1か月間の日本代表活動へも、本格的には加われなかった。
宮崎の代表合宿には序盤、顔を出すも、スタッフに患部を診てもらうだけで練習には入れなかった。マスクをつけ、仲間たちのスクラムセッションを離れた位置から眺めた。
「(首の)調子が戻っていない状態でした。焦る気持ちもありました。…複雑でした」
今度のキャンプは、リハビリ期間が明けて最初の活動だった。
午後にあった実戦形式練習では、縦割りの形で作られた3チームのうちのひとつに入って攻防の連携を確認。その後は、FW陣だけでスクラムのセッションをおこなう。具の見せ場だ。
最初は1対1。次は前列、後列で1人ずつの2対2。さらには前列2人と後列1人、前列1人、後列2人のグループによる3対3。組み合う人数を変えながら、長谷川慎アシスタントコーチの唱えるシステムを身体に落とし込む。
「ナイス! 智元!」
長谷川が叫んだのは、3対3の1本を具が押し切った時だ。目の前にいた前列2人組の間を1人で引き裂き、前に出た。
その後、試合と同じ8対8のスクラムにも入った具は、「思ったより、感覚が早めに戻ってきた。よかったです」。リーグワンのシーズン中に戦列を離れて以来、これが初めてのスクラム練習だった。
端的な言葉から前向きな状態が伝わる。
「去年はあまりよくなかったです。ちょっと、絶望でした。でも、(いまは)安心しています。不安もあるけど、自信もついてきた。強くなっていきたいです」
心身のコンディションは上向く。いまの思いは、「試合がしたいです」だ。
チームはこれからの約2週間で、52名いるメンバーを最大で40人程度に絞る。
10月1日からの対オーストラリアA・3連戦、10月29日以降のニュージーランド代表戦、イングランド代表戦、フランス代表戦を見据える。
「この合宿で(メンバーに)選ばれるように、自分のいいところを見せて、1日でも早く戻って、強い相手と試合がしたいです。いい経験がしたいです。(強豪国との試合は)スクラム、ワークレート、コンタクトとすべてがプラスになります」
久々の国際舞台を間近に控え、具は謙虚に、堂々と構える。