ルーキーとして、もやのかかっていたようなスタジアムに爽快感をもたらした。
谷山隼大。一昨季、福岡高から一般入試で筑波大に入り、秋の関東大学対抗戦Aで開幕からアウトサイドCTBとして出場した。新型コロナウイルスの感染拡大で競技活動が大きく制限される時代にあって、鮮烈な印象を残した。
身長184センチ、体重95キロという恵まれたサイズで、スピードは豊か。防御を引きずり、長い腕を前後に操りオフロードパスを繰り出すさまは、さながら海外選手だった。
中学時代に走り幅跳びをしていた影響か、空中でのボール争奪戦でも強さを発揮した。
「何事にもがむしゃらに取り組んでいける人になりたいです。謙虚な気持ち、ラグビーを楽しむ気持ちが成長には一番、必要だと思う。そこだけは、見失わずにやっていきたいです」
あれから2年。3年生になっていた。
話をしたのは8月20日。長野・菅平高原サニアパークで、日大との練習試合を16-12で制した時のことだ。
雨に見舞われたこの日は、トライシーンを含めて2度、防御ラインを豪快に突き破って駆けるシーンを作った。ストライドが大きかった。さらにはキックの弾道を追う動き、防御でも爪痕を残した。
チームは昨季、対抗戦で8チーム中6位。4季ぶりに大学選手権出場を逃していた。自身もけがの影響もあってか、思うような働きができなかった。
いまは心機一転。充実のシーズンを送りたいと語る。
「去年はまず、結果があまりよくなくて、自分もやりたいプレーができなかった。今年はその反省を活かす。大学選手権出場、日本一という目標を達成するために、まず対抗戦開幕からしっかり戦いたい」
そのために磨きたいのは、「コミュニケーション」。課題を芝の外にも求める。
「自分に、そこが足りていなかった。今年はプレー中ももちろんですが、グラウンド外でも仲間とコミュニケーションをしっかりとる。まず、そこをやっていきたいです」
改善点を明確にするかたわら、チャレンジするのはポジションチェンジだ。
昨年まではアウトサイドCTBやWTBを務めていた一方、今季、FW第3列のNO8に転じた。高校時代のFW第3列復帰となる。
「チーム事情、自分の適性を見て、嶋さん(嶋崎達也監督)と話して、今年はNO8で行くことになりました」
今回のコンバートにより、話し相手の「幅」を広げた。もともとプレーしていたBKのポジション群の選手に加え、新しく「近所同士」になるFW陣の面々ともすり合わせをおこなうようになった。
繰り返せば、仲間と「コミュニケーション」を取って相互理解を図り、試合でよりチームに役立つパフォーマンスがしたいと谷山は考えている。
目指す方向性に、置かれた立場が一致している。
転向への思いを語る言葉がまた、興味深い。
「適性を、まだ探っている、という感じですね」
自分の生きる道を固めるべく特定のポジションで勝負する選手が少なくないなか、本当に最適なポジションがどこかを「探っている」。スケールの大きさの表れとも取れる。
「まだ、(今後プレーするポジションは)探り探りです。ただ、どこであってもやることは変わらないと思っています。自分の求められるプレーを、やっていきたいです」
進歩を楽しむ過程で、ラグビーとの向き合い方も変えた。
大ブレイクした1年時は「まだ自分がどこまでやれるのか、自信がなくて。人の話を聞く、本を読むということをして、将来の選択肢をできるだけ広げられるようにしたいです」。卒業後も競技に没頭するかどうか、やや慎重に考えていた。
しかし時間が経ったいまは、「(トップレベルでラグビーを)続けて、いきたいです」。練習試合の後も、複数のクラブ関係者と談笑していた。
少なくとも若いうちは、自らのプレーで自らの人生を創るつもりでいる。
「3年生って、そういう(進路を定める)時期だと思うので。もっといいアピールをして、自分が活躍できる環境にいけたらいいと思います。筑波大のこと、自分のことを両立させていけたら」
チームの復権、自らの価値向上のための大切なシーズンを間近に控える。9月10日の対抗戦初戦では、昨季全国準Vの明大とぶつかる(東京・駒沢陸上競技場)。