ラグビーリパブリック

恩師との約束、規律の徹底。流経大・土居大吾主将、「勝負の年」に向き合う試練。

2022.08.21

2022年度の流経大主将を務める土居大吾(撮影:向 風見也)


 芝の影が伸びる。水色と群青が混ざった空に、声が響く。

「Aチーム! 歩くな!」

 流経大ラグビー部の土居大吾主将が、主力の「Aチーム」へ発破をかける。練習の合間も空気を緩ませたくなかった。

 意識するのは率先垂範。チームが目指すプレーは、まず自分が完璧にやりきる。

 1人の走者を2人で倒し、球に絡む防御のセッションでは、タックルして起き上がるや隣の味方役に「ジャッカル! ジャッカル!」とすべき働きを伝達。その相手が声に呼応すると見るや、自身がその選手の身体を支えて「ジャッカル」を成立させる。

 その場を仕切る池英基ヘッドコーチが叫ぶ。

「さすが、キャプテン!」

 8月19日。長野県の菅平高原で合宿中だった。予定されていた摂南大との練習試合はコンディションを鑑みて中止にしたものの、動けるメンバーは15時から約3時間、汗を流した。2日後には慶大と腕試しをする。土居は宣言する。

「自分が一番、声を出して、チームの進むべき道、やることを明確にしていきたいと思っています」

 身長178センチ、体重94キロ。堅実なCTBとして知られる。

 味方のキックの弾道を追いかけ、捕球役の走路を断つ。タックラーを正対してひきつけながら、ピンポイントのパスを繰り出す…。かような「周りを活かすプレー」を心掛けており、好きな選手には中村亮土を挙げる。日本代表で自身と似た特徴を示すからだ。

 もっとも今季は、動きの幅を広げたいとも話す。その意識をにじませたのが、この日にあった実戦形式練習。防御網の隙間へ果敢に仕掛け、タックラーを引きずりながらオフロードパスを試みた。

「自分でボールを前に運べるところは、運んでいきたい」

 付属の流経大柏高の出身だ。高校では「熱い方でした」と尊敬する相亮太監督、戦術や技術を教える中村龍一ヘッドコーチに出会えたのがよかった。何より最後の冬、クラブ史上初の全国大会4強入りを果たした。

「高いレベルでできていたことは、自信につながっています」

 準決勝で敗退した2019年1月5日の午後、会場だった東大阪市花園ラグビー場のロッカールームで相から訓示を受ける。その様子を放送局が撮影した動画は、SNS上で拡散されて話題となった。長らく大学ラグビー界に君臨したあるベテラン指導者も、そのVTRを見て「相君のファンになってしまった」と感嘆した。

 相の言葉を直に聞いた土居は、改めて当時を思い返す。

「この先のステップで日本一になり、それを報告しに来て欲しいと言ってくれて…」

 流経大にとって、今季は「勝負の年」か。付属校で好結果を残したメンバーが最上級生となっているからだ。土居に加えSOの柳田翔吾、WTBの永山大地も、流経大柏高出身の主力候補である。

 現実は甘くない。

 昨季は夏前までに部内でクラスターが起き、それまで上位争いをしていた関東大学リーグ戦1部で8チーム中5位。大学選手権出場を14季ぶりに逃した。

 現チーム発足後も、土居をけがで欠いて臨んだ春季大会Bグループで3勝2敗。法大、筑波大に屈した。

 「勝負の年」にあって、試練の時を過ごしている。

 来る次のリーグ戦へも、土居はシビアな感覚を持っている。

「今年は勝負の年だと自覚していますが、春季大会では僕自身もけがで苦しんで試合に出られなかったし、成績も振るわなかった。リーグ戦では、一試合、一試合を、マジで、全力でやる。以前のように『(優勝争いの)東海大戦、日大戦にフォーカスを当てる』というのではなく、今年の初戦の関東学大戦から本気で戦い、勝ちに行くイメージです」

 手応えも感じている。離脱したメンバーが夏になって戻ってきたのはもちろん、シーズン始動時からの積み重ねが成果となりつつあるからだ。

 今年の冬から春にかけ、次々と新たなルールを設けていた。朝食前の点呼、プロテイン摂取の義務化、日々の栄養バランスの管理と、それまで自主性に委ねてきた領域も管理下に置いた。睡眠の質を保つべく、完全消灯は23時半とした。

 それもこれも、全国上位で戦えるだけの身体を作るためだ。

 感染者数の波が高まれば、昨年に採り入れていた「電車移動禁止」の取り決めも復活させた。

 一部選手が7月の関東大学オールスター戦に出る際は、本拠地の茨城から試合のある東京へと電車に乗って移動している。ただしそれは「(その時期が)オフだったから」。特例措置だった。

 生活に縛りをつければ、3桁もいる部員のなかでは賛否両論が渦巻く。それでも土居は、仲間を粘り強く説得してきた。

 その根気が、実りつつある。

 3年生LOのブレンドン・ネルが10キロほど増量するかたわら、減量のために米の量を減らしているという4年生LOのアピサロメ・ボギドラウは徐々にシェイプアップ。この傾向には、内山達二ゼネラルマネージャー兼監督も喜んでいた。

 土居は言う。

「(新しい習慣にも)慣れるんで! 『最初は文句を言ってたのに、いまは当たり前にやってる!』みたいなこと、ありますよ。そうするためにもリーダーたちは、最初のうちはきつくても(厳しく)言い続けなきゃいけないです」

 繰り返せば、恩師との約束は「この先のステップで日本一になり、それを報告」すること。いまの自分たちの過ごし方が、目的達成への最適解だと信じる。

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