コテコテの漢字表記だ。薫田真広ゼネラルマネージャーはそう言って笑った。
今年5月までの国内リーグワン元年で4強入りした東芝ブレイブルーパス東京が8月15日、オンラインで会見。同部で監督経験のある薫田は、OBへの聞き取り、選手との対話を経てチームスピリットを言語化したと話す。
「猛勇狼士」。もうゆうろうし、と読む。勇猛果敢な狼のような侍の姿を示し、言葉の意味を海外出身のコーチ、選手とも共有したと続ける。
副題には「我ら接点無双」と記した。クラブの伝統的なプレースタイルを体現した。
「外国人スタッフにも一言、一言の意味を理解してもらいました。コテコテの漢字ですが、これが東芝らしさ。これを外国人コーチが理解し、選手のパフォーマンスで体現していく」
臨席したのは荒岡義和社長。リーグワン発足に伴うクラブの事業化を受けて現職に就き、この数か月でラグビーにのめり込んだ。
プレーオフで東京サントリーサンゴリアスに敗れたのは、ちょうど熱が盛り上がったタイミング。試合会場の大阪から東京への道中、涙が止まらなかったという。
今度の「チームスピリッツ」ができるよりも前から、決意が固まっていたという。
「なぜ勝ち切れなかったんだろう…。いろんな理由はあると思います。ただ、最後に行きついたのは、トップを任されている自分が本気でリーグワンのトップを目指そうと思っていなかったんじゃないか、口では言っていたけれど意志が弱かったんじゃないか、ビジョンを持っていなかったんじゃないか…ということです。来るべきシーズンに向かってどうすればいいか。まだ結論は出ていないですが、世界有数、唯一無二のラグビークラブに変わっていかないとだめ。チームも、運営もそこを目指さなければいけない」
クラブが全国4強入りを果たしたのは、旧トップリーグ時代の2015年度以来。上位定着を目指すなか、新たな試練に直面してもいる。
ジョー・マドック アシスタントコーチが、昨季限りで退任した。
マドックは直近の3シーズン、緻密な攻撃設計と選手をひきつけるプレゼンテーションでチームを下支えしてきた。現在は、かつて選手として活躍したイングランドのバースで指導にあたる。ちなみにブレイブルーパスがこのほど発表した新体制下では、森田佳寿コーディネーター、ダン・ボーデン新バックスコーチがマドックの領域を補いそうだ。
選手の並びにも変化が生じる。
在籍数は、前年度比で6名減の46名。SHの小川高廣、FLの徳永祥尭両共同主将、日本代表で主将経験があるFLのリーチ マイケル、元ニュージーランド代表FLのマット・トッドら主力は健在も、持ち前の突破力で脇を固めたシオネ・ラベマイ、ジョニー・ファアウリがそれぞれ浦安D-ロックス、静岡ブルーレヴズに移っている。新天地を求めた選手は他にもいる。
リーグワン発足を前後し、国内の移籍市場は活性化した。特にラベマイ、ファアウリといった日本代表資格を持つ海外出身者は、他クラブに在籍する選手も含めて価値が増している。それぞれ「カテゴリA」と位置付けられ、試合ごとの登録に上限のある外国人枠とは無関係にプレーできる。複数のオファーを得やすい。
ワールドカップ日本大会の直前まで約3年間、日本代表の強化に携わっていた薫田は、自軍を取り巻く情勢についてこう述べている。
「育った選手が移籍することはネガティブに取られやすいですが、選手の将来を考えれば移籍先で活躍してもらいたい気持ちも大きくあります。日本ラグビーのために、いまあるコーチングリソースを最大限活用し、チームカルチャーである選手の育成を続けていきたいです」
「日本のマーケットは大きく変わってきている。その流れに沿いながら、いただいているさまざまなご支援の枠のなかで優勝できるような強化、編成をしていきたいです」
今回、発表されたチームスピリットは、在籍する選手のキャリアを問わずクラブへ根付く類のものだ。
就任4年目に突入したトッド・ブラックアダー ヘッドコーチは、「ここまで勝ち切れていないチームが他のチームの足跡を従うのはよくあること。ただ、自分たちはそうした生き方をしたいとは思っていないです。イノベーション、革新性を打ち出し、知的に、スマートに、判断できる選手を抱えて進めていきたい」と見据える。