慌ただしい日々で学びを得た。
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ所属の北川賢吾は6月上旬以降、しばらくラグビー日本代表の宮崎合宿へ参加した。
もともとこの時期は、代表予備軍にあたるナショナル・デベロップメント・スコッド(NDS)の一員として動く予定も、故障者の発生した本隊へ急遽、「昇格」した。NDSのキャンプのため大分入りして間もなく、声がかかった。
「大分では、(初回練習の序盤におこなう)ブロンコテスト(持久力の測定)しかやっていません。その後、ウェイトトレーニングのテストも何種目か予定されていたのですが、『ベンチプレスをやろうかな…』と思っていたところで…(移動が決まった)」
日本代表は今夏、ふたつのグループを同時に動かしていた。選手層を広げるためだ。
常連組が軸となる日本代表が6月25日以降にウルグアイ代表、フランス代表と計3試合をおこなう一方、若手に経験者が混ざったNDSは、同月11日のトンガ出身者らとの親善試合、18日のウルグアイ代表戦(ともに東京・秩父宮ラグビー場)で存在感を示すことになった。
NDS組は6月上旬の活躍次第で、19日以降に宮崎の本隊へ招かれる。何より宮崎組よりも先にテストマッチ(代表戦)を経験できうる。裏を返せば北川には、他のNDS組に先んじで引き抜かれたがゆえに逃した機会があった。
本人は「正直、試合のチャンスが欲しかったところはある」としつつ、最後は気持ちを整理できた。
視線の先にあるのは、2023年のワールドカップ・フランス大会である。
「NDSで試合に出た選手も、結局は上(代表本隊)で試合に出ることを目標にしている。それは自分も同じです。それと、今回は可能性があって上に呼んでもらえたのであって、ポジティブに捉えています」
早くともNDSが解散する19日まで、宮崎で汗を流した。ここで感じたのは、主力組の無形の力だ。
同じPRで先発の多い稲垣啓太をはじめ、長らく主軸を張るメンバーの様子を踏まえてこう語る。
「(代表メンバーの)ほとんどが(国内の)リーグワンで対戦している相手です。プレーの強度、レベルに関しては——(項目ごとの)得意、不得意はあっても——負けているとは思わなかったです。それでも代表に定着できている人と自分とでは、日ごろのラグビーへの取り組みなどで差があると感じました。僕は(急なピックアップで)バタバタしていたこともありますが、ついていくのが精いっぱい。ただ稲垣さんのような選手は、しんどいなかでもチームのことを考えていた。練習以外のところでも、食事の時に若手、違うチームの選手とも分け隔てなくいろんな話をしていました。ここは見習うべきというか、自分の苦手なところでもありました」
一定の手応えをつかめた「プレー」でも、学びはあった。
最前列に入るスクラムは北川の見せ場だったが、所属するスピアーズと日本代表とでは組み方が異なる。
スピアーズは、南アフリカ代表のマルコム・マークスの強靭さ、後方に入る大型選手の重さを活用する。
それに対して日本代表は、塊へ入る8人の一体感を重視する。ぶつかり合う前の相手との距離の取り方にも、小兵が巨漢に押し勝つための創意工夫がにじむ。
長谷川慎アシスタントコーチが唱え、2019年のワールドカップ日本大会での8強入りにつながったシステム。これを自分のものにしなければと、北川は決意する。宮崎では、先頭中央のHOを担う経験者へ助言を求めた。
「堀江(翔太)さん、坂手(淳史主将)にいろいろと聞きながら、代表の組み方がわかるようになってきました。まだまだ完ぺきではないですが」
身長178センチ、体重110キロ。代表戦出場数を意味するキャップは3つ、得ており、まもなく30歳となる。来年のワールドカップに向けたメンバー争いへ、アピール材料にしたいのは器用さだ。
左右両方のPRへ入れる。これまでプレーしてきた東福岡高、同大、いまいるスピアーズでも、その時々のチーム事情に応じて定位置を変えてきた。
背番号でそれぞれ1番、3番をつける両PRは、スクラムを組んだ際の感覚が異なる。いずれもこなせる選手は、戦うレベルが上がるほど希少性が増す。
登録メンバーに上限があるワールドカップに出るべく、北川は自らの特性を活かす。
「1番と3番が全く違うことはわかります。ただ、練習すれば誰でもできると思うんです。むしろ、両方やった方がスクラムでの総合的な対応力は上がる。例えば、自分が1番だった時、相手の3番がどういう状態か、何をされたら嫌か、何をすると楽になるのかが、わかるようになるんです。両方やってきてよかったですし、今後もやっていきたいと思っています」
日本代表は今秋、イングランド代表などの強豪国とぶつかる。サバイバルレースで独自色を打ち出す北川は、「けがをしないよう、いつでも行けるように常に準備をしておきたい」とも続ける。