目指すは世界最高峰の舞台。ただし思い描くのは、プレーヤーではなくレフリーとしてフィールドに立つ自分の姿だ。
京都成章高校ラグビー部1年の延原梨輝翔(りきと)は、FWのバックファイブとして厳しいトレーニングを重ねながら、レフリーとしても活動している。いわば高校ラグビー版の“二刀流”だ。
小学生の時に岡山県の美作ラグビースクールで競技を始め、岡山ジュニアラグビースクール(中学)を経て今春京都成章に入学した。同じ道を歩んだ5歳上の兄は、現帝京大3年の延原秀飛。京都成章3年時に高校日本代表に選出され、大学でもレギュラーで活躍する世代屈指のバックローである。
レフリーを始めたのは中学3年の時。高校入学後、みずからの意思で本格的に取り組むようになった。なぜこの若さでレフリーに興味を持つようになったのか。そのきっかけがふるっている。
「試合でひとりだけユニフォームが違うじゃないですか。それがかっこいいな、と」
昔からルールに詳しいという自覚はあった。実際に笛を吹いてみて、微妙なプレーの判断や自分のジャッジによって試合の流れが変わるところに難しさを感じるが、その難しさがレフリングのおもしろさであるとも思う。両チームが存分に持ち味を発揮し、すがすがしい雰囲気でノーサイドを迎えられた時の爽快感は「最高に気持ちいい」と笑う。
すでにC級レフリーのライセンスを取得し、月に1回ほど自チームの練習試合などで笛を吹いている。日本協会の育成機関であるレフリーアカデミーにも参加しており、7月に菅平で行われた全国高校7人制大会では、カップトーナメントでアシスタントレフリーを務めた。プレーヤーとレフリーを両立するのは「メッチャ大変ですし、しんどいです」と苦笑するが、一方で両方に全力で取り組むからこそ得られるものもあるという。
「プレーヤーとして『こういうプレーをしたらペナルティをとられる』ということがわかるようになるし、レフリーとしても、プレーヤーの気持ちをわかることは大事。両方やる意味は、すごく大きいと思います」
チームを率いる湯浅泰正監督は、入部間もない4月に行った部内マッチで初めて延原がレフリーとして笛を吹いた時の印象を、今も鮮明に覚えているという。
「試しに吹かせてみたら、メチャクチャうまかったんですよ。スパッとジャッジするし、上手なレフリーの雰囲気を持っていた。たまたまある大学の監督が見に来られていたんですが、途中から選手じゃなくレフリーばかり見ていましたから(笑)」
優れたレフリーの育成は、ラグビー界全体の最重要テーマのひとつだ。チームにとっても、普段から公式戦と同じレベルでジャッジできるレフリーが身近にいることは、さまざまな面でメリットがあるだろう。こうした若い世代から「自分はこういう形でチームに貢献する」という流れが広がれば、ラグビーの普及と発展にもまちがいなくつながる。
「プレーヤーとはまた違った、ラグビーを好きになる形を示してほしい。延原より下の世代の子たちが『こんな関わり方もあるんだ』と後に続くようになることを、僕は楽しみにしてるんです。あの子自身、絶対に兄貴に勝ちたいという思いがあるから、自分なりに考えて兄貴とは違う道でトップを目指すといっている。そうなれば夢が広がりますよね」(湯浅監督)
高校3年間はプレーヤーとの両立を続け、卒業後はレフリー活動に専念するという。将来の目標は、プロレフリーとしてトップレベルのゲームで笛を吹くこと。高校ラグビーの新たなモデルケースとして、またこれまでとは違ったトップレフリーへの道を切り開くパイオニアとして、大きく羽ばたいていくことを期待しよう。