33歳のリーチ マイケルが復調した。
度重なるけが、手術を経て、今夏のラグビー日本代表ツアーで躍動。持ち場のFLに入って強烈なタックルを重ね、ランでスコアも導いた。
5月までの国内リーグワンを戦っていた頃から、尻上がりに調子が出ていた。
コンディションが整ったのを受け、「練習量は増やしました」。所属する東芝ブレイブルーパス東京の同僚で、元ニュージーランド代表FLのマット・トッドのおこなう個人トレーニングに志願参加。身体に負荷をかけ、力強さとスタミナを底上げした。
本人が挙げる好調の要因には他に、新たなFWコーチの存在がある。
トッド・ブラックアダー体制3季目に突入した昨季のブレイブルーパスでは、指揮官と同じニュージーランド出身のサム・ワードが着任した。スキンヘッドの大柄な好漢。ぶつかり合いにこだわるクラブへ、ぶつかり合いに必要な体力と技術を植え付けるのを責務とした。
果たして、旧トップリーグ時代から通算して6季ぶりとなる全国4強入り。そのシーズン終盤、ワードはオンライン取材へ応じている。
その折、クラブの象徴たるリーチ、若手の手本となるトッドへ謝辞を述べた。
「彼らには、プレッシャー下でのプレーの遂行力があります。2人がチームのFWのためにやってくれていることには感謝しています」
35歳。2018年にはトンガ代表のアシスタントコーチも務めた。コーチングキャリアのターニングポイントは、19歳以下ニュージーランド代表の関連活動だという。
オークランドで、20歳以下ニュージーランド代表入りを目指す発展途上の若者を教えた。
対象選手が競技にどれだけ精通しているかは、シニアレベル以上に千差万別だった。
ここでワードは塩梅をつかんだ。いかに教え、いかに教えないか、教えがどう伝わり、どう生かされるかの塩梅だ。
「若いコーチは、いろいろな情報を採り入れ、伝えたくなるが、情報量のバランスのとり方が重要だとわかりました。選手がコーチの情報をどう仕入れるか、学んだことをパフォーマンスで活かすまでの過程は、それぞれに違います」
教えすぎない。教えが反映されるのを急がない。初めて訪れたこの国でも、その考えに重きを置く。簡潔に指導する。
「スクールボーイであっても、リーグワンであっても、インターナショナルであっても、結局は同じスキルを遂行しなければいけない。ラインアウト、モール、スクラムのシステム、モデルを提示し、それを(試合で)プレッシャーがかかるなかでもしっかりおこなえるよう、練習もプレッシャー下でおこなう」
その流れで適宜、選手へ助言を施すが、そこで前提に置くのは「人間関係の構築」だ。
同じ内容を聞くのでも、それを話す相手のことが好きかどうかで受け取り方は変わる。
それが人間というものだと、ワードは知る。
「大人数の選手がいるチームで、違う文化の国の人々と働く。そんななか、選手をチームのシステムにはまるように導きたかった。ですので、まずは選手の性格を理解したいと思いました。FWの選手とは、リレーションシップを作るために、お互いにハグであいさつするようにしています! 言語のバリアをなくすためです。コロナの状況を考えると望ましいことではないかもしれないが…」
ちなみにリーグワン2022で、部内のウイルス禍による不戦敗はなかった。安全な親睦のもとでワードが信頼を得たのは、リーチからだけではない。
来日1年目のLO、ジェイコブ・ピアスは、地元のノースハーバーでプレーしていた少年時代にワードと知り合っている。
新しい職場に旧知のコーチがいることで、期待をかけた。期待以上だった。リーグ選定のベストフィフティーンを受賞し、述懐する。
「彼は僕にとっても素晴らしいコーチ。(習得すべき内容を)シンプルに伝えてくれる。役割にフォーカスできるよう仕向けてくれます。改善点を包み隠さずに伝えてくれる。それは、もともとそうしてくれるだろうと予期していました」
選手とコーチの「関係性」が深まるほど、コーチの伝える簡潔なメッセージはより高次で共有されるだろう。新シーズンは今年12月中旬からだ。オフに帰国したワードも、すでに再来日済みだ。