イワシセンサー。女子15人制ラグビー日本代表が防御で用いる言葉のようだ。
イワシは身体の側面に、側線器官というセンサーを備える。群れがサメに襲われても、互いがぶつかり合わずにトップスピードで逃げられる。
小柄な選手の多い通称サクラフィフティーンは、イワシの組織性をむしろ相手に迫る時のモチーフとする。等間隔を保ち、段差のないラインを敷いて前に出る。サメを思わせる強力な走者には、2人がかりでぶつかる。すぐに起き上がる。
7月30日、埼玉・熊谷ラグビー場に南アフリカ代表を迎えた。15-6で制した24日の同カード(岩手・釜石鵜住居復興スタジアム)の時に続いて、守備で粘った。
なかでもタックルを重ねたひとりが、6番で先発の齊藤聖奈だ。対する12番のアピウェ・ングウェヴら、強い突進役の足元に刺さった。ゲインラインを割らせぬよう努めた。
もっともこの日は、要所でスペースをえぐられ10-20と敗れた。だから齊藤は、再三の好守よりも反省点について触れた。
「こっちが3~4人かけないと(相手が)止まらない部分を、修正できなかった。大きな選手は、2人で止められるようになりたいです」
身長164センチ、体重67キロの30歳。主将だった2017年のワールドカップ・アイルランド大会時は、HOの位置を務めた。いまのFLに転向したのは、19年に就任したレスリー・マッケンジー ヘッドコーチの勧めによる。
8対8で組み合うスクラムでの入る位置を、最前列中央から後列端側に移したのだ。それでも試合展開によっては、元の働き場へも入る。その折は、以前と同じようにスクラムで統率力を発揮する。
今度の一戦でも、7点差を追う後半10分からHOに回った。すると、それまで押し込まれることもあったスクラムを改善した。
まず、HOとして最初に組んだ自陣ゴール前左での1本。相手の塊が崩れるまで耐え、ペナルティキックを獲得した。
その後も低い塊を作って前に出たり、立ち合いで姿勢を保って向こうのアーリープッシュ(ボール投入よりも前に相手を押す反則)を誘ったりした。
「南アフリカ代表がアーリー気味に入ってきたので、駆け引きしながら組んでいました」
南アフリカ代表側の右PRの肩がやや内側へ向いていると見ていたのか、こうも述べた。
「(日本代表の形が)まっすぐになっていることをレフリーにアピールしながら押しました」
確かに担当レフリーに自分たちの順法精神を理解してもらえば、不利益を被るリスクを減らせそう。近年、FLとして可能性を広げてきた齊藤は、HO時代の引き出しも活かす。
今秋のワールドカップ・ニュージーランド大会を見据え、好調を維持してきた。5月には、敵地で格上のオーストラリア代表を12-10で破っている。
今回、代表戦の連勝は3で止まったが、「次のステップアップのための課題がたくさん見つかったと思います」。後輩たちは、試合直後のロッカー室で具体的な改善点を話し合っていたようだ。齊藤は続ける。
「私たちから何かを言う(注意する)ことはなくて。(全体的に)若くてもリーダーシップを取ってくれる、自立した選手が多いです」
8月下旬には静岡・エコパスタジアム、東京・秩父宮ラグビー場でアイルランド代表と2連戦をおこなう。