ラグビーリパブリック

笑顔と歓声に包まれたブラインドラグビー実技教室。小学生が元日本代表選手らを翻弄

2022.08.02

山梨県で初めて開かれた体験会。今後も全国各地で開催される



「ター、ター、ター、タッチ!」
「クリスこっちだ!」
「こっちってどっち?!」

 去る2022年7月17日、山梨県の山梨学院大学ラグビー場においてブラインドラグビーの実技教室(体験会)が開催された。
 冒頭の掛け声は体験会終盤におこなわれたミニゲームでのもの。その声に一体どんな意味があるのかはのちほど説明するとして、まずはブランインドラグビーについて少し説明したい。

 ブラインドラグビーはその名の通り、視覚障害を持つ方が楽しむためのパラスポーツの一種だ。2015年にイギリスで発足し、日本に紹介されたのは2019年。まだまだその歴史は浅い。

 2019年、ラグビーW杯に伴ってブラインドのイングランド代表が来日することになり、急遽日本代表が結成される。世界で最初のテストマッチが開催された。
 結果は日本の3戦全敗だったが、これを契機に日本とイングランドでブラインドラグビーを世界に発信する機運が高まり、日本ブラインドラグビー協会では啓蒙活動として昨年から全国で体験会を実施している。

 今回山梨県で初めてとなる体験会があり、トップイーストリーグ加盟のクリーンファイターズ山梨の選手を中心に、地元の障害者スポーツ関係者が参加した。

 まず、ブラインドラグビーとはどのような競技なのか。基本的には7人制ラグビーのルールとなる。スクラムもあればラインアウトも、プレースキックもある。

 特別なルールとしては、タッチフットの要領でタックルは認められておらず、ディフェンスが相手にタッチした段階で攻撃側はボールをリリースしなければならない(このあとディフェンスは5メートル下がる)。

 このタッチが6回続いたところで自動的にターンオーバー、相手ボールとなる点が一般的なラグビーとの違いだ。また、ボールは中に鈴が入った特殊なものを使う。

ブラインドラグビーの専用ボール。中に鈴が入っていて音で場所がわかる。(撮影/鈴木正義)

 実技教室では、まず晴眼(視覚障害のない状態)のクリーンファイターズの選手等がアイマスクを着け、全盲の状態を体験する。声と手を叩く音を頼りに歩くという体験だ。
 例えば血液型の同じ人で集まって、というお題に対し、「O型はここに集まって!」という声を頼りにO型の選手たちが集結するという具合だ。

「ここってどこだ」「そっちじゃないと言われても具体的に言ってもらわないとわからない」など、どのように声をかけるかによってコミュニケーションの「質」の違いが生まれることを体験した。
 ラグビーは自分より後ろにいるプレーヤーにボールを渡す競技である。この声の質によるコミュニケーションの違いは、選手等にとって非常に示唆に富むものであったに違いない。

 続いて視覚障害の度合いを再現した特殊なゴーグルを装着してボールを使ったプレーを体験する。

視覚障害には全盲(まったく見えない)以外に弱視といわれる状態があり、多様な弱視の状態をゴーグルによって再現している。(撮影/鈴木正義)

 特殊なゴーグルにも慣れて、なんとかランパスまでできるようになってきたところで、いよいよ7人制のミニゲームの体験となった。

 驚いたのは、ブラインドラグビーの選手である添田翔選手の動き。音と声を頼りにほとんど全力に近いスピードでダッシュしてみせる。
「自分はとくにかくスポーツが好きで、視覚障害を持ったことを不自由だと思ったことは一度もありません。さまざまなスポーツに取り組んできまいたが、現在はブラインドラグビーにハマっています。」(アルコバレーノ東京 添田翔選手)

 さて、ゲームにはいくつかコツというかルールがある。ディフェンスの選手がどこにいるのか、これはディフェンスをかわす意味でも、危険な衝突を回避する上でも知る必要がある。
 このためディフェンスの選手は冒頭に言ったように「ターターター」という声を出しながら、手を前に突き出した状態でアタックを捕まえにゆく。

 まだおっかなびっくりのクリーンファイターズの選手はノロノロとディフェンスしているが、当日参加した視覚障害を持つ小学生(12歳)の男の子はこのディフェンスを軽々とかわし、この日一番軽快な動きを見せてくれた。
 元日本代表のWTBオト・ナタ二エラらも全くの形なしで、会場からは笑いが絶えなかった。

参加した小学生から「凄い腕の太さ!」と驚かれるオト・ナタニエラ。このあとこの少年に何度となくディフェンスを突破されることになる。(撮影/鈴木正義)
軽快な走りでクリーンファイターズ山梨選手を翻弄し、トライをあげる小学生参加者。(撮影/鈴木正義)

 一方のアタック側も難しい。パスを出す相手がどのような視界を持っているのか、まず理解しないといけない。極端に視界の狭いゴーグルの選手には突然パスを出しても反応できずノックオンになってしまう。
 パスのタイミングも出してと受けてで、「パス下からいくぞ」「もっと前に来い」のように呼吸を合わせないとならない。

普段ならなんでもないパスもこのとおり。(撮影/鈴木正義)

「相手が取りやすいパスを出す。相手がパスしやすいようにコミュニケーションする。普段のラグビーで言っていることと何も変わらない。今回この体験会に参加することで、そのことの大切さを選手等に気づいてほしい」(クリーンファイターズ山梨監督 加藤尋久)

「ブラインドラグビーは、ゴーグルをつけることで障害者も健常者も同じ条件で楽しめるスポーツ。是非その楽しさを多くの人に知ってもらいたい。自分も大学(山梨学院大)、社会人(ヤクルトレビンズ)とラグビーに携わり、なにか恩返しがしたいと、この事業に携わっている。こうした活動を通じて障害を持つ人への理解が深まればと思い、取り組んでいる。」(一般社団法人日本ブラインドラグビー協会森祐二郎事務局長)

競技ルールだけでなく視覚障害者の現状などについても説明する森祐二郎事務局長。(撮影/鈴木正義)

 こうして、山梨で初めてとなるブラインドラグビー実技教室は歓声と笑顔に包まれながら、成功に終わった。
 今年はまだあと6回ほど全国各地での開催が計画され、次回は9月11日に岩手県で開催予定。ラグビー関係者は是非協会HPなどをみて足を運んでもらいたい。

 障害者スポーツへの理解促進に貢献できることはもちろん、自分のラグビー競技にもおおいに刺激を受けられることは請け合いである。