ラグビーリパブリック

#トップイーストもいいぞ 歓声の戻ってきたTEは横河が大勝

2022.06.24

LO坂本龍哉は横河武蔵野で今もっとも勢いに乗っている選手の一人。試合毎に成長を遂げ、188センチ、105キロと筋骨隆々の恵まれた体型を生かし、密集で体を張る。特にコンタクトの強さが秀でている。國學院久我山/明大を経て2020年加入。(撮影/山形美弥子)

山梨・NO8マパカイトロ パスカ。今シーズン42歳になったベテランはここ数年で一番コンディションがいい。この日も何度となくカウンターで横河武蔵野陣内に切り込んだ。(撮影/山形美弥子)
2年目を迎え、アグレッシブなボールキャリーとジャッカルに磨きがかかるPR藤涼雅。「ノーペナルティで完封勝利を収め、チームとして昨季との違いを感じる。自分も自信を持ってプレーできるようになり、ボールキャリーが増えた。今日は観客席の応援が原動力になりました」。(撮影/山形美弥子)
「まずはチームで決めたことを試してみる、その上でなにが正しかったのかという判断基準を持つことが次につながる」と今後の課題と取り組みを語った、クリーンファイターズ山梨・加藤尋久監督。(撮影/山形美弥子)
クリーンファイターズ山梨・LO池田将大。今シーズンラグビーができる環境を求めて山梨に移住してきた。練習に取り組むひたむきさに、周囲も期待せずにはいられない。(撮影/山形美弥子)


 ラグビーリーグワンは、埼玉パナソニックワイルドナイツが初代チャンピオンとなり、盛り上がりのうちに幕を閉じた。その傍らで、最近こんなハッシュタグをラグビー関係のSNSで見かけるようになった。

#トップイーストもいいぞ

 このハッシュタグは東日本の社会人トップイースト各チーム間で自然発生的に広がっている。そう、トップイーストも、いいのである。

 春季交流戦トーナメントたけなわのトップイースト、そのベスト4を懸けた、横河武蔵野アトラスターズ対クリーンファイターズ山梨が6月19日に行われた。

 トップイーストは9月からのリーグ戦がいわば「本番」であるが、昨年から始まったこの春季交流戦は、A〜Cのグループ分けを取り払い全チームが勝ち抜き方式で優勝を争う。
「昨シーズンBグループ降格となって、上位チームと戦うのに体をぶつける、タックルをするというラグビーの基本の部分が足りていなかったことを思い知った。こうした基本に取り組んできた」
 クリーンファイターズ加藤尋久監督はそう語った。絶好の力試しの機会ということだ。

 また、この時期は4月から新社会人となった選手の社会人ラグビー公式戦デビューの時期でもある。それぞれのチームのメンバーにも新人の名前が見られる。
「自分の強みはスクラムだと思っています」
 横河武蔵野PR山本渓太(帝京大)
「自分は大学時代からもアタックが得意で、そこで貢献できると思っています」
 クリーンファイターズ山梨 LO池田将大(天理大)

 それぞれ大学の強豪校で鍛えてきた新人2人にとっても、この春のトーナメント戦は力試しの場でもある。そんな選手たちの胸に秘めた思いの中、キックオフの笛は吹かれた。

 キックオフ7分に横河武蔵野のWTB古田泰丈がまずトライ。横河武蔵野の動きがいい。ここから横河武蔵野の猛攻が始まる。

「全員が底上げされ、誰が出ても同じようなレベルのプレーができるチーム作りに取り組んできた。昨シーズンは30代の選手中心にならざるを得なかったが、この春は若い選手にも出場機会を与え、試合の緊張感の中で同じレベルのプレーができるようになることを期待している」
 今シーズンから指揮を執ることになった横河武蔵野・深堀敏也監督の期待通り、この試合は10分にはLO坂本龍哉(明治大25歳)、14分の古田、24分のSO衣川翔大(慶応大25歳)、30分には平間丈一郎(明治大26歳)と、若い選手がたて続けにトライを上げ、躍動する。コンバージョンキックも全て決めて前半30分で35-0と完全に勢いに乗る。

 対する山梨は、「今シーズンやろうとしていたプレーがあるのに、肝心な局面で昨年までの経験値でのプレーに戻ってしまった。基本に忠実という部分が継続できていなかった」と加藤監督が試合後に振り返るように、この日の山梨はディフェンスが噛み合わない。
 結局前半を横河武蔵野の7トライの49-0で折り返す。

 この点差にも横河武蔵野は、「山梨は力のある外国人選手もいて、勢いに乗せてはいけないチーム」(深堀監督)と点差が開いた後も気を緩めない。

 山梨がゴール前に迫るシーンもあるものの、あと一つのところでターンオーバーを許したり、ペナルティーを犯してチャンスを逃してしまう。

「ディフェンスでブレイクダウンからターンオーバーを取る、これも昨年課題だったが幾つかできた。また、今日の試合はノーペナルティで、規律も守れた。これは収穫だった」(同監督)
 まさに横河武蔵野の思い通りの展開となって、後半も勢いは変わらず、8トライで合計101-0となってノーサイド。



 昨シーズン両チームは春に1試合、秋のリーグ戦では2試合と3回当たって全て横河武蔵野の勝利。この交流戦は山梨にとっては新チームの試金石であったが、むしろより高い壁となった横河武蔵野にまたしても跳ね返された試合となった。

 ところで先に触れた新人たちはどうだったろう。横河武蔵野の新人山本は後半スタートから登場。
「社会人新人なのでチャレンジャーとして挑んだ。力は発揮できたと思う」と力強く答えた。
 その言葉通り、後半もモールにスクラムと、終始山梨を圧倒し続けた横河FWで山本の存在感は小さくはなかった。
「スクラムでのコミュニケーション、ショートトークなどの大切さを大学から学んできた。そうした点も活かせたと思う」と、社会人でのプレーにも手応えをつかんだようだ。

 一方クリーンファイターズの池田は得意のアタックまでゆく展開にたどり着かない。
「通用した部分もあった。(社会人は)大学よりも一つ上のフィジカルレベルだと思うので、体が強い(184センチ、114キロ)だけではなく、スキルも必要と感じた」と地震の手ごたえと課題を振り返る。と自身の課題も振り返る。

 頼もしいのは、両名とも「今後の目標は?」と聞くと口を揃えて
「トップイーストでナンバーワン、脅威に思われる選手になりたい」と答えたこと。
 この2名の他にも、トップイースト各チームに魅力的な新人が入っている。これからの2年先3年先のトップイーストで彼らが駆け回る姿を楽しみにしたい。

 横河武蔵野のワンサイドとなったゲーム、監督として2022年公式戦初勝利を飾った深堀監督に「今日のMOMを選ぶとしたら?」と聞いてみた。
「難しい(笑)。強いてあげるならば序盤10分にNO8の清水(新也)がケガで急に入ることになったジェイデン(・トア・マックスウェル)ですかね。いきなり入ってもらったのにすぐに順応してチームに勢いを与えた。アタックでもいいペネトレーションをして、ディフェンスもいいタックルを見せてくれた」
 確かに、ジェイデンが縦の突進で豪快にゲインする場面が何度もみられ、それが試合を通して横河武蔵野の勢いを象徴していた印象だ。

 横河武蔵野ホーム開催のこの試合は、約2年ぶりの有観客試合となった。
 トップイーストはチームグラウンドで開催されるケースが多く、企業の敷地内であるため、感染対策などでより慎重な判断がされてきたため、この2年選手たちは無観客の中でプレーを続けてきた。横河電機グラウンドにもこの日久しぶりにファンの歓声が帰ってきた。

「やはり本当に嬉しいですね。試合前、選手たちもまず(周りを)見まわしなさい、といいました。選手の顔もパッとかわってスイッチが入ったようでした。こういう機会は続けて行けるようにしたいですね」(深堀監督)と、笑顔が溢れる。運営関係者の努力と所属企業の管理責任者の方の努力にあらためて敬意を払いたい。
 各チームの思いがぶつかり、その思いを受け継ぐ新人が育ち、それを後押しする観客が集う。
 やはり、トップイーストもいいぞ。

就任当初から「持っている力を一つにして成功に導くのが自分の責務。自分たちとして持っているものを発揮させることができれば、かなり強いチームに生まれ変わる」と話していた深堀敏也監督。まさに今、チームは生まれ変わろうとしている。(撮影/山形美弥子)
コーチ陣から「スクラムが強い、フィールドプレーもうまい、ハンドリングも良い。帝京大で4年間プレーしていただけのことはある」と絶賛されるルーキー・PR山本渓太。ブレイクダウンの仕事振りにも定評がある。(撮影/山形美弥子)