伝統的舞踊の「シピタウ」を、試合前にも、試合後にも、退場前に場内を一周する際にも披露した。締めの合図は「感謝!」。チームを始動させてからの約1週間で練習を重ねた独自の形だ。
日本でプレーするトンガ出身者らが「トンガサムライフィフティーン」として集まった。6月11日、東京は秩父宮ラグビー場。母国の海底火山噴火による被災者を支える、チャリティーマッチのためだ。
練習できたのは3日のみ。準備期間は限られた。いざ本番を迎えれば、司令塔のレメキ ロマノ ラヴァがハイパントと鋭利なランを繰り出し、左PRのシオネ・ハラシリら途中出場の突進役が躍動。運動量の問われるラストワンプレーの場面でも、トライラインに迫る。試合展開を引き締めた。
日本出身者で唯一、このチームに入ったSHの人羅奎太郎は言った。
「皆、最後まで戦い続けていこうと話し合っていました。そこは、貫けた。ひとつになれたと思います」
対戦相手は「エマージング ブロッサムズ」。将来の日本代表候補と目されたり、長らく同代表の常連でありながらさらなる奮起が期待されたりする、ナショナル・デベロップメント・スコッド(NDS)からなるチームだ。
こちらも合流から約1週間。攻め込んでからの接点での反則などで一時、ブレーキもかけたものの、チームを率いる堀川隆延ヘッドコーチはこうだ。
「課題は多くありますが、ディフェンス、セットプレー(スクラムをはじめとした攻防の起点)では、しっかり(力を)出してくれたと思います」
その言葉通り、スクラムは日本代表と同じ形で組んで終始、安定させた。膝に力をため、向こうの圧を吸収する。NDSでこの領域を教える斉藤展士アシスタントコーチコーチは、かねて日本代表の長谷川慎アシスタントコーチの思想を把握している。「エマージング ブロッサムズ」で最前列中央のHOに入る堀越康介は、かねて自信を覗かせていた。
「日本代表のやっていることをそのままコピーして(指導して)くれている。(スクラム以外を含めて)練習メニュー、強度、レビュー(振り返り)も代表のような形でやってくれています」
防御も光った。
2人のタックラーが走者の外側、内側のコースを埋めて圧をかける。現在、宮崎で活動中の日本代表へ同行する、ジョン・ミッチェル新アシスタントコーチの理論を実践した。
何度か組織が破られ、そのひとつは前半23分の失点につながった。ただしそれ以外の局面では、網を破られてからのカバーが光った。
12-7とリードして迎えた31分、中盤で接点の周辺を攻略されるや堀越が自陣22メートルエリアまで駆け戻る。タックル。近くにいたFBの尾崎晟也が球に絡み、インサイドCTBの立川理道が支える。笛を聞く。
向こうの反則を誘った2人がかりでのジャッカルは、ミッチェルが提唱する防御の「出口」だった。
日本代表キャップを持つテビタ・タタフもジャッカルを連発し、24-7と差をつけて迎えた後半18分には自陣ゴール前で相手をつかみ上げた。一緒に絡んだLOの辻雄康が球をもぎ取り、そのまま前進。難を逃れた。
献身的に身体を張ったのは、SOの田村優主将も然りだった。
ワールドカップに2度出場の司令塔は、声を張り、身振り手振りを交え、人と人をつなげた。攻めては防御の手前に迫りながらの深い角度のパスで、本人の意図通りに「勢い」を生んだ。その流れで、後列のアスリートがスペースを攻略した。
竹山晃暉。日本代表関連活動は今回が初めてというWTBは、17-7としていた後半3分にトライを決めている。皮膚感覚は悪くなかった。
「(今日の相手は)トンガ代表ではないですけど、トンガを代表する選手の国際的なレベルのフィジカルを経験できた。今後のテストマッチへのいい準備になるかなと思います」
ノーサイド。31-12。両軍、肩を組んで讃美歌を熱唱。各々の試合の行動目標は、果たされたと言えよう。敗れたラトゥ ウィリアム志南利ヘッドコーチは、かねて話していた。
「試合をやる時はやる。終わったら友だちですよと」